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プロローグ
「あーちゃん久しぶり。もしかして背が伸びた? まさか俺が縮んだのか!?」
5年ぶりに再会した幼馴染は、そう言って屈託なく笑った。
だからわたしも、ガチガチに緊張していた心を解いて自然と笑うことができた。
「なに言ってんの、よっちゃん。厚底よ、厚底ブーツ! 脚が長く見えるんだよ」
「おっと!」
厚底がよく見えるように片足を上げたせいでバランスを崩し、よろけてしまったわたしの腕を吉秋が引き寄せる。
そのまま緩く抱きしめられるような形になって、心臓がドキンと跳ねた。
「相変わらずあーちゃんは、おっちょこちょいだなあ」
こんなに近い距離も全く気にしていない様子で笑顔を見せる吉秋は、5年前よりも恰幅がよくなった。頼りがいのある大人の男の雰囲気を存分に醸し出している。
胸の奥がズキズキ痛むのは、いつまでたってもこの人には追いつけないのだとまた痛感させられたためか、それとも五年前にあんな別れ方をしてしまった罪悪感なのか。
当時すでに大人だった吉秋にとってあの出来事は、引き摺るに値しないただの日常の一コマだったのかもしれない。
どれだけ背伸びをしても、手を伸ばしても、あなたには届かないんだね――。
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