兄とよっちゃんとわたし

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兄とよっちゃんとわたし

 わたし、坂井杏(さかいあんず)には五つ年上の兄・武史(たけし)がいて、その兄の親友である宝田吉秋(たからだよしあき)とは家が隣同士だ。  20数年前にニュータウン開発されたこの街の、きれいに区画整理された建売住宅を両親が35年ローンで購入した。同時期にお隣に越してきた宝田家とたまたま両家の長男が同い年だったことから、坂井家と宝田家はあっという間に意気投合して家族ぐるみの付き合いが始まった。  出会いから20年以上経つ吉秋は、わたしたち坂井兄妹にとっていわゆる「幼馴染」というやつだ。  子供の頃の記憶を辿ると、そこには必ずと言っていいほど兄とセットで「よっちゃん」が登場する。  兄と吉秋は小学校から高校までずっと同じ学校、部活も同じテニス部でダブルスのペアを組んでいた。  毎年難関大学に多数の合格者を出している学区トップの公立高校で常に上位の席次をキープしつつ、テニスでもそこそこの成績を残したふたりは、わたしにとって「自慢のお兄ちゃんたち」であり、母にとっては「自慢の息子たち」だった。
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