匂い。

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 授業の内容が全く理解できなくて、  休み時間に職員室に出向いた。  先生は赤いカーディガンをしていて、メガネはしていなかった。  薄く塗ったファンデーションの下には、うっすらとそばかすが見えた。  目を見ると、灰色をしていた。  灰色というのは正確ではないのかもしれない。  コンタクトのせいなのかもしれない。  ただ、じっと見ると、その目は深い黒色をしていて、  光彩の中にある瞳孔は深い海の底のようだと思った。   高校二年。  十七歳の僕はその、若い女の国語教師の目が好きで、ほんのちょっとした些細なことでも、やりとりそのものが好きだった。  僕は昔から人の目をじっと見るのが好きで、よく、怒られる。  だけど、  先生は、僕がそうしても、何も気にしないようだった。  そのことが、とても心地よかった。  彼女は二十三歳で、大学卒業後、この学校に来た。  いろんな話をした。  それは授業の合間だったり、  休み時間だったり、  放課後だったりした。  授業そのものも好きだけれど、  授業以外の話を聞くのも好きだった。 
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