匂い。

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 教科書に載せられている文章の曖昧さを指摘したかったのだ。  円形、円錐形、円盤、コイン、穴、四角形。  そんな言葉を並べながら、僕と先生はコミュニケーションをした。  左手が、事務机の上に乗せられていて、「小さいな」と、僕は思った。  赤いカーディガンが重力に従って体に羽織られていて、  襟元には白い肌をした細い首があり、  その上には、ほんの少し丸みを帯びた顔が乗っている。  薄いファンデーションと、そばかす。  灰色の目と、深海の目。  回答は、どうでもいい、と、僕は思っていた。  ただ、この「やりとり」が、好きなんだ。 そんな風に、自分のことを思った。    そのとき、不意に匂いがした。  した、というのは適切ではない。  ずっと、その匂いはしていたのだ。  匂いは漂ってたけれど、それまで自分は気づかずにいて、ある瞬間にその匂いを感じ取ることができたのだ。    その匂いは、先生から発せられるものだとわかった。  先生の赤いカーディガンに隠れた下腹部から出ているものと、僕は思った。  先生はコットンのパンツを履いていて、
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加