人生ルーレット

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人生ルーレット

【人生ルーレット】 人口が増えすぎたその惑星で、 人口調整を行うために政府が打ち出した施策。 それが、人生ルーレットだった。 その惑星に住む国民は、身分や階級に関わらず 必ず一度だけ人生ルーレットに参加しなければならない。 三畳ほどしかない狭い部屋は透明の壁で半分に仕切られており、 中央の机を挟んで対極に置かれた二脚の椅子、 一台の監視カメラ、 一台のスピーカー、 そして中央の机の上には、ルーレットが置かれていた。 ルーレットは人生ゲームでよく目にするような手動のもので、 中央の針の周りには、十個に区切られたマスがあった。 そのマスには、二人の名前が交互に書かれている。 生死を決める方法は、『運』だった。 狭い部屋に入れられた二人のうち、 選ばれた一人だけが生きることを許される。 たいていの者は、この部屋に入った瞬間に恐怖で足がすくみ 大声で泣き出す者やパニックになり発狂しだす者もいた。 だが、マサトは違った。 堂々とした態度でその部屋へ入ると、ゆっくりと椅子に腰を掛けた。 彼の古くからの友人の一人に、 この『人生ルーレット』を取り仕切っている政府の人間がいた。 彼はその友人に賄賂を渡し、 ルーレットの針が自分のコマに止まるように細工を頼んでいたのだ。 彼は、既にこの人生ルーレットの結末を知っていた。 マサトは対面の椅子に座っている女性とジャンケンをして、 ジャンケンに勝った彼女がルーレットの針を回すことになった。 だが、どちらがルーレットの針を回そうと 結果は既に分かっている。 勢いよく回り出したルーレットは、 次第にゆっくりになっていく。 そして、ルーレットの針は 『ユリ』と書かれているマスを指して止まった。 マサトは頭の中が真っ白になった。 椅子から立ち上がろうとしたが、 両足と左手はベルトで椅子に固定されている。 「おい!どういうことだよ!約束と違うじゃねーか!」 マサトは監視カメラに向かって叫んだ。 監視カメラの向こうでは政府の人間が一部始終を見ているはずだが、 スピーカーから声が聞こえてくることは無かった。 「なんとか言えよ!全部見てんだろ! おい、なんとか言ったらどうなんだよ!」 その後も、マサトは声が枯れるほど叫び続けた。 「・・・どうしてだよ。どうして、こんなことに。 針は俺のマスに止まるようになってるはずだろ・・・」 マサトがかすれた声でそう言うと、 対面の椅子に座っていた女性が口を開いた。 「最初から、全部バレバレなのよ」 彼女の言葉を聞いたマサトは、 「どういう意味だよ?」と彼女に尋ねた。 「あなたの事だから、何か企んでいるんじゃないかと思ったわ。 そこで、あなたの交友関係を調べたら、 あなたの友人に政府の人間がいることが分かったの」 「もしかして、アイツに会ったのか?」 「ええ。彼が全部話してくれたわ。 あなたが彼に賄賂を渡して、 ルーレットの針が自分に止まるように細工をお願いしたことも」 「・・・それなら、どうして?」 「だから、あなたの友人に言ったの。 『そんな細工はしなくて大丈夫です』って。 もちろん、お金も全て返してもらったわ」 「なんでだよ!?どうして余計な事をしたんだ! そんな事をしなければ、ユリは生き続けることが出来たんだぞ! 針が俺のマスに止まれば、俺が死んでユリは生き残る。 それなのに、どうして余計な事をしたんだよ!」 「だって、私はあなたに生きていてもらいたいから。 あなたが私を生かしたいと思うように、 私もあなたに生きていてもらいたいの。 だから、ズルはダメ。 ちゃんとルール通りに、運に任せるのが一番なのよ」 「ダメだ、ユリ!待ってくれ!」 マサトがそう叫んだ瞬間、 彼女の座っていた椅子に電気が流れた。 それから間もなくして、ユリは死んだ。 人生ルーレットのせいでユリは死に、俺は生き残った。 『運』は、ユリの名前を指したのだ。 生きることは幸せか? はたまた、こんな世界ではむしろ死ぬ方が幸せなのか? 人生ルーレットが行われた狭い部屋から出た僕は、 他の惑星からの侵略や内戦で戦火の絶えることのない、 『地獄』と呼ばれるその惑星の、荒廃した街の中へと消えていった。
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