自分にしかできないことをする老人が穴を塞ぐ話

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「それはおじいさんのお仕事?」  鼻をつまむ力を強めて、少年が再び尋ねる。つぶらな瞳に涙が軽く浮かぶほど、少年は自身の鼻を強くつまむ。  仕事ではないよ、老人がつぶやき、それまで伏せていた目を上げ、少年を見据える。 「これはね、私にしかできないことなんだ。代わりのきかない、私だけにしかできないことさ」  老人の目がひどく澄んでいることに少年は初めて気付く。それは彼が大切にしているブルーのビー玉にとても良く似ており、彼の周りにいる大人たちでは到底持ち得ないほどの純度を誇っていた。  故に少年はこの老人にいたく興味を持った。 「おじいさんにしかできないこと?」 「そう、私にしかできないことだ。君はまだ幼いからわからないかもしれないが、この世界に産まれた人間は皆何かしらの役割を与えられている。私の場合、たまたまそれがこの星を守る役割だったというだけのことさ。もし私がここを去ってしまえば、たちまちこの星は小さく小さく萎んでしまうだろう。だから私はこの場所に居続けなればいけない」  老人の唇はひび割れており、口中に覗く歯はそのほとんどが黄色く変色している。  世界を守る役割、その言葉が意味するものは少年の理解を遥かに超えていた。   「僕にはさっぱりだよ、おじいさん」  老人は少し微笑む。他人はおろか、自分自身さえ気づけないほどほんの少しだけ。 「大丈夫」 「えっ?」  その眼差しは優しく、声質は柔らかい。 「大丈夫、君にもいずれわかるようになるさ」
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