最愛番外 君と居るということ

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あの勢いで飛び込んできた車に轢かれていたら、確実に五体満足ではいられなかっただろう。 けれど、その衝撃であたしは頭を強く打った。 そうして意識を失った。 それから数ヶ月、あたしは目覚めなかった。 植物人間状態だった。 それがふと目覚めたのが一ヶ月前。 目を開けたら、見慣れた背中があった。 大の背中。男の癖に、細い背中。 茶色い後ろ髪。 丁度花を生けていた。 あたしはその背中をぼんやり眺め続けた。 と、彼が振り向いた。 視線を感じた、と後で言っていたっけ。 「千弥子!」 瞳を開けて大を見つめていたあたしに、大は大きく瞳を開いて。 駆け寄って。 頬に触れて。 抱き締めて。 涙を流して。 「千弥子……!」 と何度もあたしの名を呼んだ。 それから、医師が呼ばれて「奇跡だ」と言った。 そうして半年近く眠っていたと聞かされた。 その間植物人間状態で、諦めようという話も出たこと、大がどうしてもそれは嫌だと反対したこと、あたしに家族はいないから、判断に迷っていた、などと、ついでに聞かされた。 一ヶ月で退院できたのはあたしの強い希望によるものだった。
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