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詩でも書こうと思っても、全く頭が空白で。
いつもの空想に飛び込むことができない。
まるであたしの中から、空想につながる道が消えてしまったよう。
あたしは驚き、怯え、震えた。
空想が、唯一のあたしの友達で、逃げ道だったから。
書けない。
そんなことは今まで一度だってなかった。
スランプとか、そういう問題じゃない。
文章が作れないのだ。
何も。
そう、何も。
がくり、と膝を落とした。
と、タオルを巻いただけの大が飛んできて、「どうした、千弥子」と、切羽詰まった声で尋ねた。
「書けないの。小説が、書けないのよ」
静かな夜が、ひび割れた瞬間だった。
※※※
それから毎日、何時間でも机に向かって小説を書こうと試みた。
大には「あまりこん詰めるな」って言われたけれどあたしには生死以上に大切な事だったから、その言葉は無視した。
そうして退院して一ヶ月以上経った今日、家ではダメだと悟り、いつも小説のラストや、大切なシーンを書くときに行くカフェに行くことにした。
そこに行くにはバスが便利だったけれど、あたしはいつも歩いていっていた。
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