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きつい坂道だった。真夏は途中で挫けそうになるほどの。
けれどその坂を超えると、不思議と小説のいい案が浮かんだ。
だから。
今回だって。
大は当然反対した。
退院して一ヶ月とちょっと、筋肉も衰えているのに、登れるわけがないと言った。
どうしても行くなら自分もついていくと言い張った。
でも、ひとりで歩きたかった。
誰かがいたら、挫けてしまいそうだったからだ。
あたしは大と話し合って、坂を登り切ったところで大と落ち合うことにした。
家を出て30分しても登って来なかったら、急いで迎えにいく、とも。
そうして30分。あたしは息を滅茶苦茶に乱しながらも、坂の頂上まで辿りつくことができた。
「お疲れ」
言って、大はあたしにスポーツ飲料を手渡した。
蓋は開けてくれていて、あたしはそれをただ唇に当てて、飲み下すだけでよかった。
清涼感あふれる飲料の味に、あたしはホッと息をつくことができた。
「どう?千弥子。いけそうか?」
「わからない。あとは坂を下って、カフェでPCを開いてみないと」
「そっか」
大はあたしの頭をくしゃくしゃっと撫でてくれると、
「うん。行ってみよ」
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