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いつものようにイヤホンをして音楽をかける。
さぁ、始まる。
あたしの文章というメロディーが。
ゴクリ、喉を鳴らした。
コンサートの演奏を前にした演者のように、あたしは緊張していた。
さぁ、前奏が終わる。
キーボードに指を置いて。
なんでもいい。
心の儘に、書くのよ。
……お前は
あ、書ける。
愛されてはいけない。
自分の文字をみて、真っ青になる。
何、これ。
どういうこと?
ううん。本当はわかってる。
そうよ、千弥子。
あたしは愛されちゃいけない。
だって、小説を書くことは、愛されないことの対価なのだから。
あたしは愛されない。
誰にも。
その代わり与えらえれた翼が文章。
あたしはその文章で、どこまででも飛べる。
何処まででも駆けていける。
けれど。
愛されてしまった。
大は。
自分の命をかけて、あのとき、車に飛び込んだ。
自分の命より、あたしの命を選んだのだ。
愛されている。
咄嗟に悟った。
だから。
だから「文章」という翼は、あたしから奪われた。
大に愛されたから。
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