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「あたしはね、今まで誰にも愛されなかったの。両親はもちろん、その他の誰にも。でもその代わりに、文章を書く才能をもらったの。神様に。人生は等価交換よ。でも、大に愛されてしまった。だから、もう小説を書くことができないの」
むすっと聞いていた大が言った。
「なんだよそれ。神様?等価交換?何妄想繰り広げちゃってんの?愛された経験がないと書けない文章だってあるじゃん。小説と愛情は関係ないじゃん」
「あるのよ」
「ねーよ」
「満たされてしまったら書けない。過去に大きな傷がないと書けない。少なくとも、あたしにとってはそれが小説よ」
「じゃ、千弥子はどーすんの?小説書けないから俺と別れんの?俺より小説を取るのかよ。俺は嫌だよ。千弥子と別れるの」
あたしだって嫌よ。大と別れるなんて絶対嫌。
でも小説を書かないということは、あたしには死と同じ意味だった。
「迷ってるわ」
「いやだ。離さないし離れない」
「大……」
胸がキュンと痛んだ。
大がどれだけ愛してくれているかわかってる。
小説が書けないから別れる、なんていうのが、どれだけ愚かな選択なのか、自分でもわかってる。
それでも。
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