最愛番外 君と居るということ

9/47
前へ
/47ページ
次へ
「あたしはね、今まで誰にも愛されなかったの。両親はもちろん、その他の誰にも。でもその代わりに、文章を書く才能をもらったの。神様に。人生は等価交換よ。でも、大に愛されてしまった。だから、もう小説を書くことができないの」 むすっと聞いていた大が言った。 「なんだよそれ。神様?等価交換?何妄想繰り広げちゃってんの?愛された経験がないと書けない文章だってあるじゃん。小説と愛情は関係ないじゃん」 「あるのよ」 「ねーよ」 「満たされてしまったら書けない。過去に大きな傷がないと書けない。少なくとも、あたしにとってはそれが小説よ」 「じゃ、千弥子はどーすんの?小説書けないから俺と別れんの?俺より小説を取るのかよ。俺は嫌だよ。千弥子と別れるの」 あたしだって嫌よ。大と別れるなんて絶対嫌。 でも小説を書かないということは、あたしには死と同じ意味だった。 「迷ってるわ」 「いやだ。離さないし離れない」 「大……」 胸がキュンと痛んだ。 大がどれだけ愛してくれているかわかってる。 小説が書けないから別れる、なんていうのが、どれだけ愚かな選択なのか、自分でもわかってる。 それでも。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加