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最愛番外 君と居るということ
暑い。
まだ三月の中旬だというのに、ひどく暑かった。
汗が額を伝う。コルセットで締め付けたウエストが、みしりと音を立てる。
長い入院生活で、筋肉の衰えを感じた。
急な坂道だった。
太陽は燦々と降り注ぎ、まるでいく手を阻もうとするようだった。
あたしは祈るように思った。
この坂を登り切れたら。
いつものカフェにたどり着けたら、あたしは「書ける」。
また、前のようにスラスラと、文字を綴ることができる。
小さい頃から唯一の友達だった空想と、仲良く睦みあうことができる。
……それは、なんの根拠もない、ただの妄想だった。
それでも。
あたしは奥歯を食いしばり、坂道を上がった。
※※※
あたしは半年前、事故にあった。
青信号の横断歩道を歩行中、車があたし目掛けて突っ込んで来たのだ。
正確にはあたしたち。
その日は大があたしの家に遊びにきて、食事に出かける途中だった。
車がいきなり飛び込んできて、固まるあたし。
大があたしを押し倒して、車のタイヤからはなんとか逃れることができた。
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