開いたら閉まる

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 数分すると次の駅に電車が止まる。  この駅は乗り換え駅でもオフィス街に位置するわけでもない小さな駅のため、ほとんど降車する人はいない。でも僕は念のため、一度降車して人の行き来の導線を確保した。  2名が降りる。  乗車しようとしている人は、1名だけ。  身なりがくすんだ老齢の男性が乗車口に並んでいる。  差し引き1名のスペースは空くのだが、あまり変わりはない。僕はお爺さんより先に乗り込んだ。  お爺さんは僕の後から乗り込んだものだから、今度はお爺さんが扉の目の前に立つような形となった。  扉が閉まる。  内部からの圧力で、僕はお爺さんの背とほぼ密着するような格好となってしまった。  嗅ぎたくはなかったが、こうも近いと必然的にお爺さんの匂いが僕の鼻を撫でる。  ……少し香ばしい。  ボロボロのトレーナーに乱れきった毛髪。  自由に伸びた髭が年季を感じさせる。  もし山中で出会い、下界に降りてきた仙人だと言われればそのまま信じてしまうかもしれない、そんな風貌だ。  何故か手元は軍手で覆われている。  ――何故、こういう人は大抵軍手をしているんだ?  お爺さんの手元を見つめ、そんなことを思った。  それに、こんなことを思う僕は下卑(げひ)た人間だとも思うが、朝から浮浪者と思わしき人物に密着せざるを得ない日常が、はたして救世主として相応しいのかどうか、やはり疑問の念は絶えない。  しかし、もしかしたらこの老師こそが、僕が救世するであろう物語の始まりではないのかと、少し興奮していた。  僕がそんなことを思っていると、肩口に何かが当たる。  老師の肘が、何故か絶え間なく動いている。  正直、鬱陶しい。
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