開いたら閉まる

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 肘が小刻みに揺れている。  何故かたまに大きく動く。  鬱陶しい。  というより迷惑だ。  満員電車でモゾモゾするのはマナー違反であり、モゾモゾするのは痴漢とか、そういう系統の人だけだ。許されることではない。  しかも、この救世主たる僕を小突くとは、良い度胸をしている。  段々と苛立ってきた僕は、この不埒者を断罪する必要があると感じていたし、もしかしたらその断裁こそが救世に繋がる始まりの合図なのではと思っていた。が、同時に疑問も沸く。  ――さっきから、やっているのだろうか、この爺さんは。  僕は少しだけ身をよじり、こまめに動く肘を回避しながら老師の前方を覗き込んだ。  ――削っている。  指で、何かをカリカリ削っている。  指の先を見る。  ガラス部分に貼られた広告のシールを、何故か剥がそうとしている。  意味が全くわからなかった。  全く意味はわからないけど、老師は広告シールの左下を指で擦りつけ、どう見ても剥がそうとしている。  何故か剥がそうと頑張っている。  本当に意味も意図もわからないけど、でもたぶん無理だ。  それでは剥がせない。  ――せめて、軍手は外せ。  どう考えても、軍手をしたままでは剥がせない。  爪を立てねば。  にも関わらず老師は軍手をはめたまま力む。  ――いやまずは軍手を取ってくれ。
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