開いたら閉まる

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 ――あなたは近いうちに多くの人を救うでしょう。  そんな風に言われると、悪い気はしない。  良い具合に酔っていた。  酔っていなければ、占い師なんて相手にしない。  深酒という程でもなく、軽く引っ掻けたという具合程も浅くもなく、本当に丁度良い頃合いだった。  共に浮遊感を感じていたであろう友人達も、似たような具合だったのだと思う。  それに終電までも余裕があった。  だからこそ、居酒屋を出たすぐ横で声を掛けてきた易者(えきしゃ)に、僕達は立ち止まってからかい混じりに話を聞いた。  友人達は当たり障りのない事を言われている。待ち人は近いだの、人生の転機が訪れるだの、具体性は皆無の妄言のようなことだ。そんなことは、何となく誰しもが当たり障りなく的中する可能性があるのではないだろうか。  僕の占いの結果も決して具体的な内容では無かった。しかし最後に『多くの人を救う』と付け足されれば、それはやはり悪い気はしなかった。  ――多くの人を救う。  つまりは救世主。  悪くない。  僕はそれだけで、気持ちが大きくなっていた。  それが昨日のことだ。  唯一悪い気がするのは、今日がまだ平日で、今まさに会社に向かわねばならないということかもしれない。  何故まだ木曜日なんだと、僕はカレンダー配列を恨めしく思いながら通勤電車を待っていた。  なんだか、救世主たる僕がわざわざ会社に出向かねばならないなんて、何かがおかしい気もしている。しかし会社がこちらに出向くわけにもいかないのだろうから、やはり僕が会社へ向かうしかない。そうやって僕はよくわからない諦めで心を満たすことを決め込んでいた。
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