<2・しごと。>

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「基本的にはクレームのメールと、注文の対応。うちのビルの上の階は倉庫になってるから、うちのビルの倉庫にあるものはうちからの出荷になるのね。だから少し手間はかかります。あたし達だけで綺麗に梱包して段ボールに詰めて出荷して、ってところまでしないといけないから。郵便局さんが四時にうちに来るから、それまでに一階まで持っていかないとその日の出荷に間に合わないので気を付けて!」 「てことは、自社倉庫の商品の注文を優先して処理した方がいいってことですか」 「そゆこと!理解が早くて助かるよみらちゃーん!」  少々馴れ馴れしいが、嫌な気がしなかった。多分それが、この山雲鞠花という女性の魅力ではあるのだろう。子供の頃からこんな感じで積極的に友達相手にぐいぐい行って、どんどん仲良しを増やしていったタイプだと見た。みらも比較的積極派ではあったが、自分とはまた違った方向の人間だなと思う。  きっと、営業をやってもいい仕事をするのだろう。人と話すのが好き、というのが全身から出ている女性だ。まあ、少々常識外れな言動や喋り方をしてしまって、お堅い一部の年輩者に嫌われてしまうなんてこともあるかもしれないが。 「仕事内容はシンプルだけど、その一個一個に時間かけていられないってのが大変なところなんだよね」  うんうん、と頷きながら言う鞠花。 「あと、電話対応は全員がしなくちゃいけないから。ほとんど直接電話かけてくるのは慣れた取引先ばっかりだけど、一部ものすごーく滑舌悪くて聞き取りづらい方がいるからさー。まあ、どこの誰かどーしてもわかんなかったら、営業部の誰かに回しておけば大体問題ないから!」 「い、いいんですかそんな適当で?」 「いいっていいって。そもそも来てすぐ、会社のメンバーの名前全員覚えられないでしょ?取引先のリストと座席表は貼っておくけど、パソコンに座って仕事してることが多いあたしらと違って営業部は離席してたりあっちにちょろちょろこっちにちょろちょろしてたりするから見つからないことも多いし。とりあえずすぐ電話出て、可能な限り相手の名前と宛先の人聞いてメモっておけばいいってだけ。営業補佐に直接なんか連絡くることなんかまずないから」  なかなか大雑把な人であるらしい。が、多分これが彼女の強みでもあるのだろうなと思う。細かいことを気にして足踏みしているよりはよほどいいのかもしれない。あれもできない、これもできない、自信がない――まじめすぎて臆病な人間は苦労しがちだ。前の職場でもそういうタイプはよく見たから知っている。 「とりあえず、メールの返信の仕方からですねー。あ、英語のメール来たらあたしに回さないで!あたし日本語も怪しいレベルだから自信まったくない!」 「えええ」  みらがやや緊張していることに気づいてか、笑いを取るように彼女は言った。思わずみらも吹き出してしまう。  付き合いやすそうな、ユーモラスな女性。それが、鞠花の第一印象だった。 ――この人は、りくの死に……なんも関係してないといい、な。  自分が此処に来た目的を忘れるつもりはない。余計な私情を挟むべきではないと知っている。それでも。  みらはその時、ついそんな風に思ってしまったのだった。
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