<2・しごと。>

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 ***  仕事内容そのものは、けして難しくない。  問題は、自社倉庫からの出荷作業が意外と大変だったということに尽きるだろう。  うちのビルは四階建であり、一階が大会議室と応接室、二階がオフィス、三階と四階が自社倉庫という形になっている。大きなビルではないが、三階四階の倉庫にはみっちりと商品が陳列されており、そこからお客様が欲しいと言った商品を正確に選び出し、壊れないように綺麗に梱包して発送しなければいけないのだ。  三階四階で梱包した商品を、一階の所定スペースに運べば準備OK。四時に来る郵便局の人が持っていってくれるという仕組みになっている。そして、この作業を今日の分が終わるまで繰り返すという寸法なのだ。  勿論他にも作業はあるし、外部倉庫からの出荷もある。クレームで突っ返されてきた商品のチェックなども自分達で行わなければいけないのが大変だ(これに関しては他の部署も手伝ってくれるが)。しかし、商品が戻ってくるケースは多くないし、外部倉庫からの出荷はパソコン上で手配するだけで済む。自社倉庫からの出荷と比べると格段に楽であるのは間違いなかった。 「い、意外と力仕事なんですね」  幸いにして、これらの仕事は営業補佐部全員でやるものなので、みら一人でこなさなければいけないということはない。しかし一日目にして、この仕事の大変さを既に実感しつつあるみらである。  空手(と、少し柔道も齧った)などで鍛えたみらでさえ、この作業の繰り返しはなかなかしんどいなと思うほどだ。最初のうちは無理に残業しろとは言われないだろうが、繁忙期はそうもいかないだろうなというのも予想がつく。 「そうなんですよねえ。だから、腰やっちゃってやめる人もいて。でもみらちゃんは割と力持ちみたいで助かったよ!」  あはは、と笑いながら鞠花は言う。これはチャンスかもしれない、とみらは苦笑するふりをしつつ返した。 「え、此処ってやめる人そんなに多いんですか!?結構いい雰囲気だし、人間関係とかは悪くなさそうだなって印象だったのに、残念です」  過去にやめた人――いなくなった人。  もし鞠花が何か思うところがあったなら、その言葉に反応する可能性もあるのではないかと思ったのだ。勿論、彼女が弟の死について何も知らない可能性もゼロではなかったが。 「……まーね」  一瞬。彼女が露骨に視線を逸らしたのを、みらは見逃さなかった。 「仲良い職場だと思うけど、まあ、いろいろな人がいるし、いろいろな趣味の人もいるしね。そりゃ人間関係でぶつかる人とかもいるかもねー?とは思ってるよ。営業補佐でやめる人は、基本的に身体的な理由とかですけどね。あー、結婚してやめた女子とかもいたみたいだけど」 「なるほど。その点、営業部はみんな男性ですから、やめる人は少なそうですよね。皆さん結婚してるんでしょうか」 「あ、そういうの気になる?気になっちゃう?」  ああ、話がそちらに飛んでしまったか。少し失敗したかもしれない――そう思いつつ、みらは“気になりますねえ”と頷いてみせた。 「特に霧島さんとかなかなかイケメンじゃないですか。職場の中でも外でもモテそうだなって思いますね」 「おお、さすが、お目が高い」  あっはっは、と鞠花が声を上げて笑った。さっき一瞬見せた暗い色はもう、影も形も見えなかった。 「昔から結構いろんな女子に告白されまくってきたタイプって噂。爽やか王子様系イケメンだからそりゃそうだよねってかんじ。今未婚だし、狙ってる女子は多いとは思うんだけど……どうかな」 「どう、とは?」 「んー、ちゃんと彼女を作る気がないって印象なんですよね」  こてん、と彼女は首を傾けてみせる。 「なんていうか、そういう誘いを意図的に断ってるみたいなかんじ?だからあんまり期待しない方がいいかもよ」
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