<3・ぎもん。>

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 そして、安いアパートなのでハイテクな防犯カメラなどはどこにも設置されていない。  事件が起きた頃は、閑静な住宅街にほとんど人気はなかった。仮に誰かが逃げていったとしても、目撃証言を得ることは難しかっただろう。ましてや、駅の近くまで行かないとコンビニもないような場所である。 ――もう少し、高くても駅に近いところに住めって言えば良かったのかな。……ううん、この会社に勤めるなって言えば。  みらが、会社の人間が関わっている可能性を強く疑っているのは、やはり彼の家に会社の人間ばかりが出入りしていたのがわかっているからである。  それこそ、親しくしていたというのなら寝ている隙にこっそり薬を打つなんてこともできそうだ。  問題は、仮に本当に会社の誰かの犯行だったとしても、現時点ではその動機がまったく見えないということ。そして、会社の誰がそんなことを?そもそもその人物はどうやってドラッグを手に入れたのか?ということがまったく分かっていないということである。  よってみらが、一番最初に調べたいと思っていることの一つは、彼に殺意を抱くような人間や強い敵意を持つ人間が社内にいなかったのか?ということ。りくが女性にモテていたであろうことは想像に難くないし、女性関係で揉める可能性は否定できない。本人がそんなつもりがなくても、悪くなくても、ハニートラップなんてどこにでも転がっているから尚更だ。 ――でもなあ。付き合ってる女性が仮にいたんだとしたら……流石に、姉の私に言うはずだよな。あいつの性格だと。  実は黙っていたけれど男性が好きで、男性と恋人になりました――という方向ならカミングアウトできなくてもおかしくはないが。普通に社内恋愛で彼女ができたというだけならば、両親よりも前に自分に言いそうだというのがみらの本心だった。贔屓目が入っているのは否定しないが、それを抜きにしても自分達の関係は良好で、好かれているという自負がみらにはあったからである。  勿論、人間関係でもめるとしたら恋愛絡みに限ったことではない。  上司からのパワハラだとかモラハラだとかセクハラだとか、友人関係でのトラブルなんてことも否定はできないのだが。 ――大学時代一番仲良しだった奴らが、口をそろえて最近弟には会ってない、って言ってた。あいつらのことは私だって知ってる。葬式で大泣きしてたあいつらが、嘘をついてるとは思えない。
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