<3・ぎもん。>

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 電話やメールでの連絡は取り合っていたものの、それ以外で友人たちと会うことは殆どなくなっていたようだった。理由は、とにかく仕事に集中したいから、仕事が忙しいからと言われたという。実際、就職一年目で彼は相当テンパっていたはずだった。調べたところ、スズカゼ・カンパニーが一気に業績を上げ始めていた頃である。りくは営業成績も良く、社内でも期待される存在だったのだそうだ。 ――ただ。会社で愛されていたにしては……何故か、葬式に来たのは社長だけ。他の社員は一人も顔を出さなかった……何故だ?  ちなみに、その社長は現在の社長ではない。彼が亡くなってすぐ、当時の社長は引退して今代の社長に席を譲ったのである。だから、今の会社に葬式でみらの顔を見ている人間はいない。いないのから安心して潜入できるというのもあったわけだが。  何故彼等は葬式に来なかったのだろう。家族葬ということにしたので大人数で来て貰っても困るところではあったし、本人たちもそれで遠慮しただけなのかもしれないが。 ――会社に、やましいところがあるからではないのか?だから、会社の関係者が余計なことを言わないように、葬式に出るなと命じていた……なんてことは?  ビルの階段を降りながら、みらは考えを巡らせる。気になっていることは他にもあった。初日の仕事を終えた、今日の帰り間際(仕事量は多かったが、流石に今日から残業しろとは言われなかった。派遣社員はなるべく残業させないようにと言われているのかもしれないが)、ある人物から声をかけられたのである。  それが、同じ営業補佐の最上千歳だった。 『あの……鳥海さん』  彼女はどこか気まずそうな様子で、そろそろとこちらに近づいて来て言ったのだった。 『え、えっと……仕事を、教わってる時に……山雲さんから、霧島さんのこと聞いてましたよね』 『え、はい、聞きましたけど……』 『霧島さん、優しいし、かっこいいし、凄く良い人なので……憧れるのはわかるんですけど、でも』  こんなこと言っちゃいけないんですけど、と前置きして彼女は言ったのである。
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