糖分不足な僕らの事情。

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 なんとなく手中のスマホのロックを外してみたら、彼女とのLINEのトーク画面が現れた。 『あし     』  トークの編集欄に謎の二文字だけが並んでいる。どうやら途中で力尽きたらしい。ダイイングメッセージかよ、と脳内でツッコミを入れつつ、そっとアプリを閉じた。こんな早朝じゃ、彼女どころか世の中みんな揃って夢の中だ。起きているのはきっとうちのじいさんくらい。まああの人、スマホ持ってないけど。  動画やテレビを観る気分でもない。ゲームや漫画は時間を忘れるからまずい。かと言って、荷造りは殆ど終わっているしなあ、と足元に視線を投げた。着替えを詰め込まれたトランクが、床の上ででかい口を開けている。  俺はこれからこいつを転がして成田に向かい、そのまま日本を旅立つのだ。行先は赤道の向こう、青い空と青い海がキラキラ輝く西オーストラリアのダンピア。  とか言うと羨ましがられそうだけど、なんのことはない、ただの出張である。着くや否やプラント見学だの商談だの予定がてんこ盛りで、きらめく南国をバカンスする暇もなし。  しかも、近隣のカラサ空港までのフライトは、なんと片道三十時間を超える。きっと映画プログラムをうんざりするほど周回して、ビジネスクラスなのにエコノミー症候群になるんだろう。苦行過ぎる。そもそも俺はちょっぴり高所恐怖症で、飛行機が苦手だってのに。鬱。  地学部出身だからという理由で石油ガス開発部に配属されたのが、運の尽きだった。でも大学での専攻は鉱物学で、石を死ぬほど薄く削っては顕微鏡で眺めて、地球の歴史をほんのり紐解いていただけ。天然ガスなんて畑違いもいいとこだ。
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