糖分不足な僕らの事情。

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 冷蔵庫から黒いペットボトルを取り出し、いつものマグカップに注いだ。キタキツネのイラストが描かれたこれは、彼女が北海道に出張したお土産でくれたやつ。  正直子供っぽいし、彼女はこのキタキツネが俺に似てるって言うけど全然似てないし。でも、これの色違いを彼女がいつも使っているのを知って以来、愛着が湧きまくり。これで飲めばなんでも美味しさ三割増しだ。  しかし、ベッドに腰掛けて一口飲むや否や、俺はすぐに顔を思いきりしかめた。実は昨日、いつもの微糖と間違って、まさかのブラックを買ってしまったのだ。仕方なく飲んでみたけど、まあ苦いこと。  こんな苦いものを美味しそうに飲む彼女は、俺よりもカッコイイ大人な気がして少し悔しい。仕事は同期な俺達だけど、実は俺の方がひとつ年上なのに。 「デキル女って疲れねえか?」  でも、そんなことを尋ねてくる周りのやつらは、何も分かっちゃいないのだ。  確かに、俺の彼女は仕事ができる。でも初めての営業先に行く前の晩は緊張して眠れない、ただの人見知りだ。  彼女は英語と北京語が堪能な、トリリンガルの才女。でも、『好き』『会いたい』という簡単な日本語すらなかなか言えないような、ただの照れ屋だ。  コーヒーをかっこよくブラックで飲む。けど、お酒は二口三口で真っ赤になる、ただの可愛い女なのだ。それに、寝てる時だって……。  ──あれ?  あいつの寝顔ってどんなんだっけ。すっぴんも髪の匂いも、ちっとも思い出せやしない。  なんて考えてたら、つい後ろを振り返ってしまった。視界に入ったのは、俺の垂らしたよだれもまだ乾かないへこんだ枕の横に並ぶ、シワひとつない彼女用のそれ。せっかく買ったダブルベッドは、専ら半分のスペースしか使われていない。
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