プレゼント

1/1
前へ
/1ページ
次へ
「早く死ねたらいいのに」と母が言う。 庭先に咲くポピーが、頷くように風に揺れる。 その言葉の重みを推し量ることもせず、私は答える。 「まだ、逝かないでよ」 母の意向に沿うよう強いられてきた人生。 人の手を借りずには生きられないほど、 年老いた今でも、それは続く。 私が欲しいものは、決して与えてくれなかったくせに 要らないものばかり、仰々しく押し付けてきては、 感謝の心が足りないと叱られた。 なら私も母の教え通り、 あなたにとって必要のないものを贈ろう。 「まだ、楽には逝かないでよ」 粗相の後始末の床に、そっと吐き捨てた言葉。 一人娘の手厚い介護は、近所でも折り紙付きだった。 母に一日でも長く生きてて欲しいと願うのは、 愛だろうか、憎しみだろうか。 それとも、私のエゴだろうか。 振り返ると、耳が遠いはずの母が、 恐ろしい形相でじっと私を見つめていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加