救っておくれ

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『本日ご紹介するのは◯◯県◯◯郡にある小さな村落です。ここはかつて◯◯村という名で、昭和初期当時沢山のひとが住んでいました』 滑らかな語り口の声を聞き留め目を向ける。 視線の先にはディスプレイされたテレビ画面が緑豊かな風景を映している。最新式の大型テレビから先ほど聞こえてきた声---ナレーションの説明が続いた。 『しかし高度経済成長以降、人口が減り続けついには廃村となり、空家が長らくそのままの状態で残されていました。今回は出版会社を辞めて移り住み、リノベーションした空家を民宿として営むご夫婦を取材します』 地域再生かぁ…と、テレビ画面に近付いて映像を眺める。 暇潰しで入店していた家電量販店のがやがやした喧騒の中、どうして興味がひかれたのかわからなかったが、他に何がしたいでもなし、足を止めておくことにした。 『昔の建築物は技術がとにかく素晴らしいんです。長年住むひとがいなかったので傷みも酷いのかと思ったんですが、梁や柱もしっかり生きていて、細かい痛みを直すだけで全然住めるんですよ』 『むしろこんな立派な家に住んでもいいのかしらってなんだか申し訳なくなっちゃうくらい』 今回の主役だろう夫婦が笑み混じりに話している。 その後方には、 「でっか…」 思わず小さな呟きが漏れた。確かに立派な家が佇んでいた。見上げるばかりの門から高い塀がぐるりと巡る上から、二階建ての家屋が連なっているのが垣間見える。その後ろには里山が広がっているのが見えた。全容は見えないが、まさかあの山も持ち物だったのだろうか。 家、というよりも屋敷といった方が正しいだろう。元は村長の屋敷だったと言われてもおかしくない。これは夫婦ふたりで暮らすには間違いなく持て余す。しかし民宿にするにはうってつけだ。 昭和初期にはひとが多く住んでいたらしいが、村人は相当潤沢な暮らしを送っていたようだ。 「よーす、久しぶりー」 聞き慣れた声がして顔をあげる。待ち合わせ相手がこっちにやって来る所だった。 「おー」片手をあげ雑すぎる返事をして合流する。 番組の続きが少し気にはなったが、並び立って歩き出して数歩もすると未練は煙のように消えていった。 喧騒に溢れながらも視聴する者が誰もいなくなったテレビ画面では番組が淡々と続いていた。 『それでは本日のお家をご紹介頂きましょう。少し道を外れたところにあるんですね。あっ入り口は洋風レトロにリノベーションされたんですね----…』 感嘆するナレーションとともに、左手に逸れて歩いていた夫妻が平屋建ての家屋へと入っていく。 彼等が道を曲がる前のあぜ道の先には、なにものにも邪魔されることのない青い空と、里山の景色だけが広がっていた。
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