・小説スケッチ

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 静かな雨が降る都会の交差点を、綺麗に四角く区切った車の窓。私はその窓に溶け込みひとつになるように顔を近づけ、頬杖をついた。前の車のテールランプが(まばゆ)く反射して私を照らしだす。一瞬、目を閉じて目に光を閉じ込めれば、残像によってキラキラと光る瞼裏。それがあまりに綺麗で自分の中につい見蕩れてしまう。  ルールという枠の中でスピードを出していく車の左右の窓には、景色がワンテンポ遅れてやっとのことで着いてくる。いや、違うか。ワンテンポ遅れて私が目視しているだけだ。私の方が進んでいるのに、何故か置いていかれるような気分になって目を窓の外から逸らした。飽きてきた頬杖に、欠伸という大きな理由を持ってきて、体勢を変えた。完全に窓に寄りかかるかたちになった私の身体は窓の冷たさに犯されていく。そしてそんな冷えた体温で見る、眼前の雨粒たち。  窓についた小さな雨粒には、この街の人々の人生が映り、流れ、消えていく。私と本来交差することのない人達の人生が張り付く窓を、私は片手で一枚だけ写真に収めた。加工してSNSに載せられるその写真にはもう、誰一人の人生も写ってはいない。まるで死んでしまったかのように静かになった雨粒が感傷までもを降らし私を濡らした。それを防ぐ傘なんて、持っていないと言うのに。  景色の変わらない高速道路を眺めながら思う。高速道路というのは、半分空を飛んでいるようなものだと思う。実際にいつもより高い位置から街を見下ろすことが出来るし、想像する空の旅のようにそれは早い。まあでも、ゆっくりと翼を広げて飛び回る鷹のように、好きなところでスピードを緩めることができないのだから、空を飛ぶことよりも劣っているのかもしれないけれど。  それでも私はやっぱり高速道路が好きだ。高速道路は誰も彼もがいつもより速く進むのに、それが、その行動が、何故か全てゆったりとして見えるから。何故だろう。速く進んでいる空間の中だからこそ、ゆとりが生まれるのだろうか。  いつも大抵この辺で眠くなる。高速道路のど真ん中、規定のスピードの中で私はうとうとする。さっきまでキラキラしていた瞼裏を重くゆっくりと動かして瞬きにする。こんなに早く移動しているのに、うとうと、と、目が重くなる。目を閉じて少しだけ休もうとすれば、身体が引っ張ってそれを許さない。少しだけなんて言わずにもっと、って。  ああ、もうだめだ。とりあえず一旦寝よう。
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