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「着れた?」
シオンの声がして、アスカは跳び上がる。振り返った先でカーテンが揺らめき、思わず試着室の隅へと後ずさる。
「え、えっと……」
アスカは目をぱちぱちさせて固まっていた。カーテンの向こうに、シオン以外の人影が二つ見えたからだ。どちらも同じような姿形で、どういうわけか微動だにしない。
「アスカ?」
「あ、ごめん。今出るね」
アスカはカーテンを開けた。温かく柔らかな光が目の中に流れ込み、思わず目を細めて立ち止まる。
少しずつ視界が元に戻り、アスカは目元を覆っていた腕をそっと下ろした。
別れた直後と変わらないシオンの後ろで、フードを目深に被った二人の人物が立っていた。右側の人物は背が高くて肩幅も広く、もう一人もシオンより少し背が高い。右は男性で、左は女性ではないかとアスカは思った。
「また会えて嬉しいよ。その服、すごく似合ってる」
シオンに褒められて、アスカは初めてパジャマに着替えるのを忘れたと気付いた。恥ずかしさで顔から火が出そうだが、同時に褒められたことが嬉しくもある。
「あ、ありがとう。……えっと、その人たちは?」
アスカに尋ねられ、シオンは背後の二人を振り返る。
「君に会わせたくて、連れてきたんだ。大きいほうがクレーヴェルで、もう一人がミルティーユ」
「そ、そうなんだ。えっと、よろしくお願いします」
アスカがぺこりと頭を下げると、今までぴくりとも動かなかった二人が一歩進み出てきた。クレーヴェルと呼ばれた背の高い男性が、手を差し出してくる。
「よろしく。長くて呼び辛いだろうから、気軽にクレイって呼んでくれ」
見た目とは裏腹にはきはきとした口調で話しかけられ、アスカは少し驚きつつも小さく頷いて答えた。後に続いて、ミルティーユと呼ばれた女性も手を伸ばす。
「私も、気軽にミルと呼んで下さって結構ですよ。よろしくお願いしますね」
穏やかな微笑みとともに、透き通るような声が空間に溶ける。顔を隠していても感じる気品と美しさに、アスカは思わず見惚れてしまった。指先の僅かな動きまでもが優雅で、おとぎ話のお姫様と話しているような気分になる。
話すまでは少し怖い印象があったが、二人とも意外と気さくで、アスカは少し安心していた。ただ一人、シオンだけは難しい表情を浮かべていて……。
「シオン?」
「あ、ごめん。何でもないよ」
アスカに話しかけられ、シオンは今までと同じように微笑んでみせた。
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