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時間が経つのも忘れて、アスカたちは様々な場所を回った。
ぷにぷにとした食感の、甘酸っぱい不思議な色のお菓子を食べたり。おしゃれな雑貨店では大きな猫のぬいぐるみを抱きかかえ、広場では見上げるほど大きな噴水に心を躍らせた。
初めは遠慮気味だったアスカも、気付けば積極的にあちこちへ飛び込むようになっていた。
「次は、こっちに行ってみたいな」
アスカが猫のぬいぐるみを抱えながら指さした先には、箱型の機械がたくさん並べられた店があった。
「あれは何?」
首を傾げたシオンの隣で、ミルが優雅に口元へ手を添える。
「現実世界にある遊戯の一つですね。ボタンを押して小さな腕を動かし、指定された穴に景品を落とすそうです」
「へぇ、ミルも知ってるなんて意外だな。確かクレーンゲーム、っていうんだっけ?」
クレイに視線を向けられ、アスカはこくんと頷く。
「そうだよ。まあ、私もやったことないんだけどね」
アスカは機械の前へと進み出て、シオンから貰っていた銀色の硬貨を投入する。軽快な音楽と共に色鮮やかな電飾が輝きだすと、透明な壁の向こうにあるチョコレート菓子の袋に狙いを定めて慎重にボタンを押し込んだ。
「うーん、もうちょっと前がよかったかも……ああ、やっぱ駄目かぁ」
アームは袋の端を掠めただけで、景品は微動だにしていない。遠目で遊んでいる人を見たことはあったが、実際に触れてみると想像以上に難しいことをアスカは痛感する。
「僕もやってみていい?」
アスカが頷くと、今度はシオンがボタンの前へと進み出た。真っ直ぐに景品を見据える姿を、アスカはすぐ隣で静かに見守る。
「……ここだ」
シオンがボタンを深く押し込む。ゆっくりと下に下がったアームは、大きな袋の脇腹をしっかりと掴み……。
「え、うそ!?」
袋は高く持ち上げられ、上がりきった後の大きな振動にも耐えてみせた。袋はそのまま横へスライドし、アームが開くと真下の穴へ真っ逆さまに落ちる。
機械が虹色に輝き、弾けるように明るいメロディが短く鳴り響いた。呆然と立ち尽くすアスカを気に留めることなく、シオンは取り出し口から大きな菓子の袋を引っ張り出す。
「意外と重いんだな……これでいい?」
「う、うん……」
戸惑いつつもアスカは頷く。予想外の展開に置いていかれた思考が、少し遅れて追いついてくる。
「えっと、何かまずかった?」
「ううん、凄すぎてびっくりしちゃっただけ。……不思議だね、何だか私まで嬉しくなっちゃう」
アスカはシオンが抱える袋にそっと触れる。袋がたわむ音やつるつるとした感触は、夢の中とは思えないほど現実味を感じさせた。
「やるじゃねーか……ってあれ? これちょうど四人で分けられるんじゃね?」
「あ、ほんとだ」
クレイの言う通り、砕いたナッツを混ぜ込んだ棒状のチョコレート菓子が、八つほど先端を覗かせている。
「なら、先程の噴水前で少し休憩しませんか?」
「賛成。そういえば結構色々回ったもんね」
「よっし! 俺、飲み物貰ってくるわ!」
言い終わるとすぐに、クレイは建物の外へと走り去る。
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