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「これ、アスカの分な」
「ありがと……わあ、きれいな色」
クレイから虹色の飲み物を受け取り、アスカは感嘆の声を漏らした。
喉が渇いていたため、すぐにストローを咥えて中身を啜る。
これまで口にしたことのない、独特な甘みとほのかな酸味が口内を満たした。炭酸が入っているのか、口の中にパチパチと弾けるような刺激を感じる。
「楽しいね。こうやってお喋りしながら、気ままに街を歩いて回るのって。……みんなが行きたがるの、ちょっと分かるかも」
呟きながら、アスカはチョコレート菓子を一口かじる。見た目に反して甘さは控えめで、粗めに砕いたナッツの食感と香ばしい香りがたまらない。
「現実でも、こんな風に出来たらいいのにな……」
ふわりと吹いた風が、アスカの独り言をかき消していく。
現実では、こんなことできるはずがない。服は選ばせて貰えず、雑貨など欲しがれば贅沢を言うなと怒られる。ゲームセンターに至っては、不良に育てた覚えはないと近づくことすら許されない。
(クラスのみんなは、全部好きにできるのにな……)
胸に燻る不満をかき消すように、アスカは虹色の飲み物を啜る。
ふと上を見上げると、天高くそびえる白い塔のようなものが目に入った。
「あの建物、何?」
アスカは塔の先を見ようとしたが、あまりにも高すぎて全く見えなかった。少し見上げただけで、首や頭が痛くなってくる。
「あそこは王が住まう城。この世界を支える重要な場所なんだ」
アスカの隣で飲み物を飲んでいたシオンが、真面目な口調で答える。
「つっても俺たち、一度も王を見たことはないんだけどな。どんな姿なのかも全く知らねぇんだ」
「そ、そうなの?」
クレイの後に続いて、ミルも静かに塔を見上げる。
「王は決して、他者に姿を見せないのです。人には過ぎた力を持つがゆえだと聞かされていますが、詳しいことは私達にも分かりません」
「ふぅん……」
アスカはストローを咥えて中身を飲み干す。溶けた氷のせいで薄くなった液体も残さず口へ運びながら、ぼやけてよく見えない塔の先にじっと見入っていた、その時。
突然、凄まじい衝撃と音が周囲を空気ごと揺さぶった。
「な、何……?」
アスカは手にしていた容器を取り落とす。蓋が外れ、中に残っていた氷が地面に黒い染みを作る。
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