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崩壊の始まり
「……まさか」
シオンが呟いた直後、付近の建物が砂塵を撒き散らして砕け散った。咄嗟に頭を抱えうずくまったアスカの前に、シオンが壁の如く進み出る。
砂塵の向こうから、キリキリと不気味な音が聞こえてくる。
大きな影がゆらりとうごめき、じりじりとこちらに向かってくる。
「……あ」
影から冷たい光がにじみ出て、アスカは恐怖のあまり後ずさった。
砂煙の中から姿を現したのは、巨大な爪を両手に備えた、機械にも獣にも見える不気味な存在だった。ワニとアルマジロをかけ合わせたような歪な姿で、両目は赤黒く不気味な光を放っている。駆動音にも唸り声にも聞こえる音が少しずつ近づいてきているのが、耳だけでなく肌でも感じられた。
獣の目が、アスカを捉える。獣の頭から一本の触手が伸びて、蛇のように空中でうねる。
直後、触手は棒のように真っ直ぐ伸びて、アスカ目掛けて飛んできた。
アスカは小さく悲鳴を上げる。逃げようと思っても、足が竦んで動けない。そうしている間に、触手は目と鼻の先まで迫りーー
アスカの前に飛び出した何かが、鋭い閃光とともに触手を吹き飛ばした。光に目が眩み、アスカは目を閉じてうずくまる。
触手が砕け、細かな鉄の破片となって飛散する。ばらばらと鉄くずが落ちる音が止んだ頃になって、アスカは恐る恐る目を開けた。獣が唸り声を上げながら、大きくよろめいているのが目に入る。
「怪我はない?」
花のような香りに乗って、優しい声が聞こえてくる。
見上げた先には青い宝石を切り出したような、美しい大剣を手にしたシオンがいた。先ほどまで身に着けていたローブを脱ぎ捨て、透明感のある青と白の布を幾重にも重ねたような美しい装束が露になっていた。服の右側には腰のあたりから大きくスリットが入っていて、ひだのある裾は星を散りばめたように細かな銀の光を宿している。
「危ないから下がってて。あいつは僕たちで何とかする」
落ち着いた声で言いながら、シオンは身の丈ほどもある大剣を構える。その隣へ、二つの人影が舞い降りる。
「何だか知らねーけど、アスカを傷つける奴は放っとけねぇよな」
「ええ、行きましょう。援護は任せて下さい」
穂先が緑色の槍を手にしたクレイと、華奢な白い杖を持ったミルが獣を睨んだ。二人ともシオンと似た雰囲気の服を纏っているが、色や意匠が大きく異なっていた。クレイは緑を、ミルは白と銀を基調としている。
獣が体勢を立て直し、咆哮が地面を震わせる。
獣とアスカたちの視線が交わろうとした瞬間、クレイは高く跳躍して前方に手を払った。その軌跡から緑色の光弾が生まれ、猛スピードで獣めがけて飛んでいく。
頭部に命中した光弾が次々と爆発を起こし、地響きにも似たうめき声が辺りを震わせた。激しく首を振った獣の口から、甲高い音が響き渡る。
「させない!」
ミルは手にした杖を鞭のようにしならせ、空中にいくつもの円を描いた。その円から白い光が砲弾のように放たれ、獣の体に次々と着弾する。
「グァッ!!」
着弾した箇所から銀色の刃が突き上がり、獣を貫いて地面に縫い留めた。獣はその頭上めがけて、小さな人影が舞い降りる。
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