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シオンだ。
シオンは身の丈ほどもある青い大剣を大きく振りかぶり、獣の頭部へ一直線に降下していく。空中で大きく身を捻り、淡く輝く刃で獣の頭を両断する。
獣の頭部を覆っていた装甲が剥がれ落ちる。剝き出しになった顔は、ロボットの内部のように無数の線が張り巡らされていた。動物のような声とは釣り合わない歪な姿が、アスカの目にはひどく不気味に映る。
「グ、オオオオォォッ!!」
装甲を破壊されたためか、獣が激しく暴れだした。身を捩って銀の刃を粉々に砕き、太い尾を振り回して走り出す。
真っ直ぐ、アスカのいる方向へ。
「アスカッ!」
恐怖で足がすくみ、動けなくなったアスカのもとへ、シオンたちが武器を構えて走り出す。
砂塵が吹き荒れ、地面が揺れる。
空気が震え、獣が吠える。
飛び上がった獣の影が、アスカの周囲を暗く染め上げーー
「止まりなさいっ!!」
凛としたミルの叫びが響き、辺りに透明な花がいくつも散った。回転しながら腹部に飛んでいった花たちが鋭い刃のように、腹部に密集した線やパイプを切り裂いていく。
獣が叫び、地面を転がる。
その隙を、クレイは逃さない。槍をくるくると回転させて勢いをつけ、露になった喉元を渾身の力で刺し貫いた。槍の先からビーム状の光が放たれ、獣の首筋から光が噴水の如く吹き上がる。
獣の尾を蹴り跳躍したシオンが、獣の上に着地する。構えた大剣の切っ先で青い筋を描きながら、無骨な背中を駆け抜ける。
その先には、クレイの攻撃によって露出した赤い球体があった。
「これで……終わりだ!」
シオンは大きく身を捻り、球体を薙ぎ払った。
ガラスが割れるような音と共に、赤い球体が砕け散る。
獣はか細い唸り声を漏らしながらゆっくりと地面に倒れ伏し、やがて動かなくなった。体が手足から徐々に上へと白くなっていき、やがて風に吹かれたように崩れて消滅した。
「もう大丈夫。怪我はありませんか?」
ミルに手を差し伸べられ、アスカはこくんと頷く。遠くからシオンとクレイが、こちらに駆け寄って来るのが見えた。髪や服についた土埃が、戦いの激しさを物語っている。
「助けてくれてありがとう。怖かったけど……みんな凄かったし、格好よかった」
「当然のことをしたまでだよ。これが、僕たちの役目だから」
「役目?」
「今更隠すのも無理だろ。この際全部話して――」
両手を組んで体を伸ばしながら、クレイが言いかけた直後。
風に乗って、鉄のような臭いが鼻を掠めた。
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