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「ゥヴアァァァァァァッ!!」
甲高い叫び声がアスカの両耳を貫き、頭の中を激しく震わせた。突風とともに、砂埃が肌を容赦なく打ちつけてくる。
ぶ厚い砂埃の向こうに、ビルほどはありそうな巨大な何かが立っているのが見えた。鐘のようなシルエットの上で、赤い光が不気味に輝いている。
「な、あいつは……!?」
顔を歪めつつ、シオンが大剣を構えて前へと駆け出した。素早く剣を横に払い、辺りを覆いつくす砂煙を吹き飛ばす。
砂の奥に隠れていた姿があらわになり、アスカは思わず息を呑んだ。
そこにはドレスを着た女性の姿をした、古めかしいロボットのような何かがいた。
くすんだ紫色の体のあちこちで、ピンク色の光が明滅している。異様に細い腕には短い杖のようなものが握られており、先端が青白く不気味な光をたたえていた。動くたびに裾が地面を削り、砂塵と黒煙をまき散らす。
手にした杖や色合いから、アスカにはおとぎ話に出てくる魔女のように見えた。
「ギ……ァ……!」
魔女の首が左右にカタカタと振れる。シオンは怯むことなく、魔女の胴体へ斬りかかろうと跳躍する。青く輝く刃が、ドレスを両断しかけた、まさにその時。
「ぐっ!?」
突如、どこからか飛んできた白い閃光が、シオンの脇腹に直撃した。細身の体がぐらりと傾き、真っ逆さまに地面へと落ちていく。
「シオン!」
アスカが呼びかけても、シオンは動かない。
「あいつなら大丈夫だ! それよりも……!」
クレイが言い終わるより早く、ミルが水晶の刃を無数に放った。それは魔女ではなく、シオンを攻撃した光の飛んできた方向へ飛んでいく。
その先に、見慣れない人影があることにアスカは気づいた。全身を黒いマントで覆い隠し、獣の頭蓋骨を模した仮面をつけている。
水晶が目と鼻の先まで迫った瞬間、黒服は素早く腕を払った。弾丸の如き速さで飛来した刃が地面に落ちて消えていき、ミルは僅かに顔を歪める。
黒服の目線がミルに向けられ、突き出した腕に白い光が宿る。
その背後から、一つの影が飛び出した。
黒服が気づくよりも速く、クレイは手にした槍を黒服の胸めがけて素早く突き出す。鉄の板を鉄球で叩いたかのような、鈍く大きな音が辺りに響き――
「っ!?」
黒服の腕が、槍の柄を掴んでいた。
クレイは槍から手を離し身を捻る。それすらも見切っていたかのように、黒服はクレイの腹部に重い拳を打ちつけた。大きな金槌にも等しい拳で殴られ、クレイの体は勢いよく地面へ叩きつけられる。黒服はすかさず脚を振り上げ、僅かに跳ね返ったクレイを容赦なく蹴り飛ばした。
「な……!?」
クレイが飛ばされた先に粉塵が舞い、ミルが驚きの声を漏らす。だが、黒服は止まらない。いつの間にか、不気味な黒い影が目の前におり――
「っ!?」
鞭のように閃いた杖をひらりとかわし、黒服はミルの胸倉を掴んで真横に放り投げた。そのまま手のひらをかざし、ほとばしった閃光がミルに直撃する。ミルは絞り出すようなうめき声を上げ、地面にうつ伏せで倒れ伏した。
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