第二章 壊れた世界と紅き力

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 「しばらくの間、俺たちをここに住ませてくれないか?」  ーー住む。みんなと。この家で。  断片的に呑み込んだ情報をうまく処理できないまま、アスカはシオンたちの顔を一人ずつ見つめる。  シオンと、クレイと、ミルと一緒に、この家で暮らす。    理解できた瞬間、アスカは驚きのあまりカップをひっくり返しそうになった。  「い、今何て?」  「だから、しばらくここに住ませて欲しいんだよ。俺らはこっちで生まれたわけじゃねぇから、拠点になる場所がないだろ? 普段なら別になくてもいいんだが、そうなるとこっちじゃ色々面倒なことになりそうだしな」  「それはそうだけど、でも……!」  それより先を言うのをためらって、アスカは言葉を詰まらせる。その間を縫うように、今度はミルが口を開いた。  「アスカ、私からもお願いします。非常識なのは重々承知していますが、敵がこちらの世界にも手を出してくる可能性も、否定はできないのです」  「そ、そうなの?」  戸惑うアスカに視線を向けながら、シオンも首を縦に振った。  「あいつらが、夢の世界の生き残りである僕たちを見逃すとは思えない。今の僕たちが頼れるのは、君しかいないんだ」  「そんなこと言われても……」  アスカは頭を抱えた。まだ出会って間もないのに、話がおかしな方向に進み過ぎて目が回りそうだ。  「駄目かな?」  シオンがアスカの顔を覗き込む。  正直なところ、嫌ではない。むしろ、初めてできた友達と一つ屋根の下で暮らせたらどんなに楽しいだろうとさえ思う。  だが、もし両親がふらりと戻ってきたらどうすればいいのだろう。アスカが勝手に他人を家に住まわせていたと知ったら、どんなひどい目に遭わされるか分からない。  ひょっとしたら、二度と家に入れてもらえなくなるかもしれない。  想像しただけで、心臓が縮み上がる思いがする。手が冷たくなって、震えてくる。  「アスカ?」  シオンに呼びかけられ、アスカは我に返る。怯えていたことを悟られまいと、ひどくぎこちない笑顔を浮かべて見せた。  「まあ、いきなりこんなこと言われても困るよなぁ」  「ご両親が戻ってくるまで、ということにしておいてはどうでしょうか? もし見つかったら、すぐに立ち去るということで……」  ミルの提案に、クレイもシオンも頷いた。三人の目が、アスカに集まる。  「アスカはどう思う?」  シオンに話を振られ、アスカは身を固くした。あとはアスカの意思次第ということらしいが、両親がいない状況で勝手に決めていいのか不安で仕方がない。  とはいえ、両親が帰ってくる見込みはない。それにここで断ってしまえば、シオンたちはアスカの前からいなくなってしまう。  それだけは、嫌だと思った。  しばらくの間悩んで、やがてアスカはごく控えめに頷いた。シオンたちに礼を言われて、アスカは身を縮こませた。  「……ごめんね」  か細い声が、シオンたちに届いたかは分からない。心臓が強く胸を叩き、息が苦しくて汗が出てくる。  それでも、心の中では確かな喜びを感じていた。自分を友達と呼んでくれた人たちと、ひとつ屋根の下で暮らせるのだから。  どうせなら、少しでも長くいてほしい。  じゃれ合う三人を眺めながら、アスカは密かにそう願っていた。  
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