心の味は

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 「あの、本当にいいんですか? 私、お金持ってないんですけど……」  「さっきも言ったけど、これ試作品だから。それに、こいつには普段から色々手伝って貰ってるしな。まあ、バイト代の代わりってことで遠慮せず食ってくれ」    「そ、そういうことなら……いただきます」  お金の不安が消えた安心感からか、アスカは我慢できずにスプーンを手に取った。オムライスを一口食べた瞬間、ふわりと幸せな気持ちが満ちる。  「美味しい……!」  アスカは続けて二口、三口と食べ進める。玉子は見た目通りのとろとろした食感で、コクのあるソースやケチャップライスと絶妙にからみ合いまろやかな美味しさを形作っている。それでいていくら食べても飽きがこず、口の中がくどくなるようなこともない。  「似たようなものを見たことはあったけど、こんなに美味しいとは思わなかったな」  「そうですね。一体どうやって作ってるのでしょうか?」  シオンとミルも感想を述べつつ、じっくりと味わっていた。アスカは瞬のために何とか改善点を見つけようと頭を働かせたが、あまりにも美味しかったために結局最後まで見つけることができなかった。  「すみません。せっかく食べさせて貰ったのに……」  「気にしなくていいよ。おかげで自信を持ってメニューに加えられそうだからな」  瞬はそう言って、ほとんど感想も言わず食べていたクレイの額を拳で小突いた。  「ところで、クレイはどういう経緯で駿さんと知り合ったんだ?」  最後の一口を食べ終え、よく冷えた水を口にしながらシオンが尋ねる。  「いや? 散歩してたらいい匂いがしたから、フラフラ〜っと入ってみてさ。で、なんか気に入ったから手伝わせてくれって頼んだだけ」  「何ですかそれ……」  ミルが頭を抱えると同時に、駿も後頭部を軽く掻く。  「変な奴だとは思ったけど、試しに皿洗いさせてみたら俺より早いわ綺麗になるわでさ、ちょっと自信なくしかけたよ。しかも、自分は人間じゃないとか言い出すしさ。頭のネジが飛んだアホかと思いきや、ホントに人間じゃなかったしで……」  「ちょ、話したんですか私たちのこと!?」  ガタンと音を立ててミルが立ち上がる。珍しくぴくりと身を震わせたシオンを見ても、クレイは全く動じていなかった。  「だって俺、隠し事嫌いだし」  「そういう問題じゃ……。ああもう、どうしてこの人は……!」  ミルは額を押さえ、もう片方の手をテーブルにつく。  「まあ、俺は別に気にしないけどな。他の奴にも言うつもりないし」  駿は食べ終えた皿を下げつつなだめるように言う。他言しないと言われて少し安心したのか、ミルはため息をつきつつも再び椅子に腰を下ろした。その前に、クレイを睨みつけることも忘れなかったが。
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