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「お疲れさん。どうだった?」
玄関から外に出ると、空を眺めていたクレイが振り返った。
「どうだったも何も、聞いてたんだろ?」
「あれ、やっぱバレてたか」
「当たり前でしょう」
わざとらしく頭を掻くクレイに、ミルがぴしゃりと言い放った。二人の首元では、それぞれ緑と白の宝石が月明かりを受けて煌めいている。
「そんなことより、あれ見てみろよ」
クレイが指差す先には、淡いピンク色の花を咲かせた木々が並んでいた。ここへ来て間もない頃、アスカが「桜」という木だと教えてくれたことを思い出す。
木々が風に吹かれると、花びらが風にのってシオンたちのもとへ飛んできた。
「きれいな花だよね。でも、これがどうしたの?」
シオンに尋ねられると、クレイはどこか寂しそうに微笑んだ。
「アスカに聞いたんだけど、この花って今しか見られないらしいんだよ。だから、しっかり見ときたいなって」
「ええ。……何だか、寂しいですね」
ミルがクレイの傍らに立ち、木々を見上げる。長い髪が風に揺れ、月明かりを受けて煌めいていた。
「……美しいものは、どうして儚く消えてしまうんだろうな」
ふわりと風が吹いて、シオンたちの髪を揺らす。木々が揺れて乾いた音を鳴らし、花びらが空中に舞い上がった。
「俺たちの世界は、まだ消えちゃいない」
頭上に、花びらが落ちてくる。シオンがそっと手を伸ばすと、一枚がひらひらと手のひらに舞い降りた。
「ええ。必ず取り戻しましょう」
月明かりに照らされたミルを見つめ、シオンはこくんと頷いて花びらを握りしめた。緩く握った拳を胸に当てると、どこからか不思議な匂いが漂ってくる。
甘く懐かしい匂いが、風にのって流れてくる――
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