第三章 崩れゆく世界と孤独の運命

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 自宅に戻ったアスカは、真っ先に父の部屋へと足を運んだ。  音を立てないように注意しながらドアを開け、ベッドで眠るシオンにゆっくりと近づく。  シオンは薄い布団を胸の辺りまでかけ、仰向けで眠っていた。  昨夜に比べれば穏やかな表情を浮かべているが、相変わらず呼吸の音は聞こえない。昨夜のアスカはかなり慌ててしまったが、クレイによればこれが普通なのだという。ならば大丈夫だろうと思ってはいるが、やはり違和感と不安は拭えない。  「……ん」  不意にシオンが顔を歪め、微かな声を漏らした。閉じられていた瞼がぴくぴくと動き、間から淡い色の瞳が顔を覗かせる。  「シオン!」  アスカは咄嗟にシオンの手を取った。シオンの目がはっきりとアスカを捉える。そのまま起き上がろうとしたが、少し上半身を浮かせただけで顔が苦痛に歪んだ。  「まだ動いちゃ駄目。結構酷くやられちゃったから、明日の朝までは安静にしてないとってミルが言ってたよ」  「……ごめん」  アスカが優しく肩を押すと、シオンは大人しく再び体を横たえた。それでも意識ははっきりしてきたらしく、きょろきょろと辺りを見回している。  「ここ、お父さんの部屋だよね?」  「……うん」  アスカは父の机から椅子を引っ張ってくると、ベッドの脇に置いて腰掛けた。  「私、薄情だよね。親が二人ともいなくなったっていうのに、探そうともしないなんて」  むしろ、このまま戻ってこなければいいと思っている。自分の中にそんな感情が湧きつつあることが、今になって怖くなる。  「その、ちょっと気になったんだけど。もし魔女や……ロード・ダスクだっけ? あいつらを倒したら、シオンたちはどうするの?」  暗い感情をごまかそうと、アスカは無理に笑顔を作った。  「……壊れた夢の世界を、修復しに行かなくちゃいけない。それも僕たちの使命だから」  「そっか。そうなったら、また夢の中でしか会えないのかな」  俯き、アスカは力なく笑う。シオンは天井を見つめたままで、アスカの問いには答えようとしない。  「あ、ごめん。目覚めたばっかりなのに話しかけちゃって。ゆっくり休んでて」  立ち上がり、アスカは逃げるように部屋を出る。シオンはその姿を静かに見送り、再び布団の中に身を埋めた。
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