小さな誇り

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 それから数日経った休日、アスカは少ない荷物を手に出かけようとしていた。  前日の学校で紗理奈に声をかけられたときから、公園に行こうと決めていたのだ。  ――また踊るつもりだから、見たいなら来ればいい。  小声でどこか素っ気ない態度だったが、自分の思いが少しでも届いていたことがアスカには嬉しかった。  こうして、シオンたちに行き先と昼頃には帰ることを伝え、少し緊張しつつも家を出たのだが……。  「……その人たち、誰?」  「え、えっと……」  いつから着いて来ていたのか、アスカの背後でシオンたちが目を輝かせていたのだった。クレイに至っては、アスカの家にはないはずの音楽プレイヤーまで持ち出してきている。「しゅっちーから借りてきた」と誇らしげに音楽プレイヤーを掲げるクレイに、アスカとミルは頭を抱えた。  「家で待ってようと思ったんだけど、二人とも気になって仕方ないみたいだから」  「……その、すみません」  ばつが悪そうにミルが俯く。駿の料理といい、ミルも現実世界へ興味を抱かずにはいられないらしいとアスカは苦笑する。  「まあいいや。近所迷惑になりたくないから、できる限り静かにしてて」  アスカはこくんと頷き、示された場所へと腰を下ろした。入口から見れば陰になっていて、それなりに近づかなければ気づかれそうにない。  紗理奈はクレイの持ってきた音楽プレイヤーを見せてもらい、知っている曲を探していた。借りてきたクレイも操作方法を断片的にしか把握していなかったらしく、知っている曲を見つけて流せるようにするまで少々手間取ってしまった。  準備が整うと、紗理奈は深呼吸をしてゆっくりと腕を上げた。クレイが音楽プレイヤーを操作すると、音量を絞った軽快なメロディーが流れだす。  紗理奈は素早く腰を捻り、くるくると軽やかに回り始める。  爪先が地面の草を叩き、細かな水飛沫が跳ねる。艷やかな髪が舞い上がり、曇り空から漏れ出る光を受けて辺りに散らす。おとぎ話の妖精のように可憐だと思えば、髪を振り乱すほど激しく体をうねらせる。  アスカは息を忘れるほど紗理奈に見入った。ダンスには全く詳しくないが、それでも軽やかで力強い身のこなしには強く惹かれるものがあった。  やがて、紗理奈は腕を真っ直ぐ上に突き出し、上半身を反らした姿勢でぴたりと動きを止めた。  「……すごい」  周囲に聞こえないよう、アスカたちは控えめな拍手をする。紗理奈は腕を下ろして全身から力を抜くと、アスカたちのほうを向いて表情を緩めた。
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