再会、そして

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 「止めて! 止めないなら一緒に行かない!!」  娘が邪魔をするとは思っていなかったのか、貴斗は眉をひそめつつも腕を下ろした。  「……ねえ、今までどこに行ってたの? 教えてくれないなら、私はここを動かない」  アスカは真っ直ぐに貴斗を睨みつける。ついていく気は毛頭ないが、戦う術を持たない自分にできることは限られている。  貴斗から情報を引き出し、クレイたちが突破口を見つけられれば。僅かな可能性に賭け、アスカはなけなしの勇気を絞り出す。  「少し見ないうちに、随分と我儘になったな。こいつらの影響か?」  貴斗は鼻を鳴らし、冷たい目でシオンたちを見回す。仲間たちに対する侮蔑に湧き上がる怒りを、アスカは唇を噛んで懸命に堪える。  「まあ、いい機会だ。少しくらい教えてやってもいいだろう」  そう言って、貴斗は月を見上げる。黒いマントの裾が、冷たい風に吹かれて揺れた。  「数年前の夜、俺は夢の世界に流れ着いた。その頃の俺は、仕事や家のことで疲れきっていてな。初めは毎晩あの場所で、束の間の安らぎを得るだけで十分だったんだ。……だがある日、俺は知ってしまった。あの場所にもまた、現実を生きる人間の醜い心に穢されていると。無垢な魂を喰らい、己の欲を満たそうとする獣のような存在によってな」  「……機獣のことか」  アスカの傍らに伏したシオンが、荒い息の混じった声で呟く。その声が聞こえたのか、貴斗はアスカたちの方へと振り返って言葉を続ける。  「そう。機獣とは人の醜い心の成れの果て。他人の夢をも我が物顔で蝕む、この世で最も滅ぶべき存在だ。……そんな世界を、俺は変えたかった。そのためにまずは、夢の世界の王を利用できないかと考えたんだ」  貴斗は夢の世界に何度も赴き、王と接触する方法を探った。  その方法は、貴斗の想像を遥かに越えるほどに簡単だった。城の番人に声をかけ、王に会いたい旨を伝えるだけでよかったのだ。  そうして、貴斗は拍子抜けするほどあっさりと王のもとへ辿り着いた。王とは人ではなく、巨大な石像であることを貴斗はこの時知った。  「夢は人間に必要不可欠なもの。だから壊そうと企む者はいないと油断していたんだろうな。王は機獣の破片を刺し込んだだけで、あっさりと崩れて消えてしまった。全てとはいかなかったが、奴の力もその時に手に入れたんだ」  シオンの体がぴくぴくと動く。顔を覆う髪の隙間から、歯を食いしばっているのが見えた。  「王の力というものは、実に便利だ。狙った相手を、好きなタイミングで夢の世界へ引きずり込める。あとは機獣の前に差し出せば、相手は人の記憶からも消えてなくなる。誰にも気付かれないし、気付かれたところで咎める者もいないのだからな」  貴斗の顔に少しずつ、狂気を孕んだ笑顔が浮かんでいく。  アスカの頭に、機獣に襲われた駿の姿と、貴斗に白化させられかけた紗理奈の姿が浮かぶ。恐ろしさで、息が止まりそうになる。  貴斗は憎い相手を夢の世界に誘い、機獣に夢を喰わせることで白化させていたのだ。  「奈江も、始めはそうするつもりだった。だが夢の世界にたどり着いた直後、あいつの魂に異変が生じてな。早い話が、機獣になりかけたんだ」   アスカはぞっとした。父が一切の躊躇いもなく、母の存在を消そうとしていたことが信じられない。血が流れないだけで、やっていることはもはや人殺しと変わらない。  「俺は確信したよ。こいつは心の底から腐りきっているとな。惨めに助けを乞うあいつを見て、このまま機獣に差し出すだけでは満足出来ないと思った。だからあいつの魂に手を加えて、形を変えてやったんだ」  「……まさか」  「そう、鋼の魔女は奈江だ。醜く喚くだけのあいつこそ、獣の頂点に相応しいと思うだろう?」
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