再会、そして

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 雷に打たれたような衝撃が、アスカの頭を駆けめぐる。  母のことは好きではない。だが、このような仕打ちを望んだことなど一度もない。  「何で、そんな酷いことができるの?」  声を震わせ、アスカは首を強く振る。  「私はただ、父さんや母さんに受け入れて欲しかっただけ。なのに消したとか、魔女にかえたとか……そんなこと、私は望んでないのに!」  喉がひりひりと痛むほどの声で、アスカは叫ぶ。ほんの一瞬、貴斗は目を丸くしたが、すぐにもとの笑顔へと変わる。  「俺も初めはそうだったよ。だが、俺が思っていた以上に人は……いや、この世界は醜かった。金や自尊心のために人を蹴落とし、弱い者を嘲笑う醜い心で溢れている。ならば一度全てを壊し、自分たちにとって最も居心地のいい世界を作ればいい。力を手にした俺になら、それができるんだ」  目を見開き、身振り手振りを交えながら貴斗は言う。口調は穏やかだが、言葉に込められた感情はひどく乾いてざらついている。  「……お前の濁った目には、そうとしか映らないんだろうな」  重い体を起こそうとしながら、シオンが言った。声色にはアスカが耳にした事のない、暗い感情が滲んでいる。  「この数ヶ月間で、僕たちは色んな人を見てきた。心の醜い人も、傲慢な人も確かにいたけど……そんな中でも他者を気遣ったり、未来のために努力している人は確かにいた。お前の言う汚れた世界の中でも、懸命に輝こうとしている人たちがいるんだ」  肘を支えに、シオンは僅かに身を持ち上げる。全身を縛める力を跳ね除けようと懸命に抗う姿を、貴斗は地を這う虫でも見るかのように冷たく見下ろす。  「手を引き、導くだけが親の役目ではないはず……。お前も親だというのなら、もっとアスカの声に耳を傾けるべきではないのですか……!?」  苦痛を滲ませつつも、曇りのない真っ直ぐな目でミルが言う。その隣で不敵な笑みを浮かべながら、クレイも口を開く。  「娘のためとか言ってるが……今のあんたは機獣と変わんねーよ。力に溺れて、世界の全てを手に入れられると思い込んでる……ただの、愚か者だ!!」  「うるさい、黙れっ!!」  貴斗の手から、黒い稲妻が溢れ出す。鎖から黒い電流が溢れ出し、シオンたちが苦しげな声を上げる。  「人形風情が知ったような口を! 貴様らさえ……貴様らさえいなければ、アスカは俺のもとへ来たというのに!!」  「それは違う!!」  シオンの叫びが、淀んだ空気を震わせた。  「ずっと、考えてた。アスカと出会ったとき、僕の中で何かが目覚めたような心地がして。それ以来、気にも留めていなかったことが気になるようになったりして、ずっと不思議だったんだ。でも、今なら分かる」  歯を食いしばり、体を震わせながら、シオンは貴斗を睨みつける。鎖に縛られた体が淡い光を纏い始め、手のひらから青い光が溢れ出す。  貴斗は大きく目を見張った。僅かに揺らいだ心の隙を逃さず、シオンはありったけの力を解き放った。鋼鉄の鎖が引き千切れ、粉々になって霧散する。  「僕たちの心は、アスカの心だ! アスカがずっと抱き続けていた、嘘偽りない本当の気持ちなんだ!!」  シオンの手が、大剣を握る。貴斗の向こう側で倒れている、クレイとミルの眼差しを感じつつ地面を蹴る。  二人が分けてくれた力を無駄にはできない。貴斗の目を盗み、力を送ってくれた仲間の想いを刃に乗せて、シオンは大剣を振りかぶる。  渾身の一撃を、貴斗は腕を交差させて防いだ。  だが、シオンの剣は止まらない。輝く刃が貴斗の腕に食い込み、火花を散らす。シオンは振り下ろす力を抜いて、貴斗の胸へと切っ先を反らし……貫いた。  貴斗の体を覆うマントが赤熱し、塵となって消えていく。クレイとミルを捕らえていた鎖が崩れ、消滅する。
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