目覚める翼

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 砂塵を孕んだ空気が、震えだす。  雑音の混じった鐘の音が、うるさいほど執拗に鳴り響く。壊れた天井から覗く空が、赤黒い色を帯びて渦巻き始める。  「……もう、時間がない」  槍を収め、クレイは呟く。  薄れていく甘い匂いと、体が内側から揺さぶられるような感覚、そして空を見上げる仲間たちの姿を見て、アスカは悟る。  世界の終わりが、近づいている。お別れの時が、来てしまったのだと。  「短い間でしたが、あなたと過ごせて本当に楽しかった。……ありがとう、アスカ」  寂しげな微笑みを浮かべ、ミルが言う。  穏やかな表情のシオンが、アスカの前に進み出る。口を開きかけた彼を遮るように、アスカは首を横に振った。  「違う」  仲間たちを真っ直ぐに見つめ、ゆっくりと口を開く。  「私、待ってる。いつかみんなが来てくれる時まで、ずっとずっと待ってる」  戸惑う仲間たちへ向けて、アスカはさらに言葉を紡ぐ。  「無茶だって分かってる。でも私、信じていたいの。奇跡は起きるって、ほんの少しでもいいから信じたい。みんなが私の心から離れて、一人の人間として会いに来てくれるって……そう信じて、待っていたいの」  両親の束縛から逃れるなんて、絶対に無理だと思っていた。シオンたちと出会わなければ、今も抑圧された日々を過ごしていたはずだ。  だが、もうアスカを遮るものは何もない。シオンたちと出会い、共に過ごし、両親と真正面からぶつかって、向き合えた。自身と両親を縛っていた呪いを、断ち切ることができた。  貴斗が夢の世界に流れ着かなければ、決して起こることがなかった奇跡だとアスカは思う。  だから、信じていたいと思った。自分が掴み取った道の先に、奇跡があると信じたいと思った。  その思いが伝わったのか、シオンの表情がふっと緩んだ。  「僕も同じだ。使命とかは関係なく、君と一緒に暮らしたい」  シオンの言葉を受けたミルも、少し恥ずかしそうにしながら微笑んだ。  「私もです。その、あなたを見ていたら、色んなことに挑戦してみたくなってしまいましたし」  「色んなこと?」  「俺たちも最近知ったんだけどさ、こいつ、意外と他人に影響されやすいみたいなんだ。図書館で料理やダンスの本を読み出したりさ」  「ちょ、黙っている約束だったでしょう!?」  「別に黙ってる必要はないだろ? 好きなら堂々と好きって言ってりゃいいんだよ」  「もう、この人は最後まで……っ!」  普段と変わらないクレイとミルの会話に、アスカの表情も自然と綻ぶ。いつの間にか日常の一部になっていたこのやり取りも、これで最後だ。  「じゃあ……いつかまたどこかで会えたら、また友達になってくれる?」  「もちろん」  三人が同時に答え、笑顔を向ける。夜明けの太陽のように眩しい表情に、アスカは目を細めて微笑んだ。  空気が、激しく振動する。地響きのような音が、足元から伝わってくる。  「……それじゃ、またね。アスカ」  三人が、アスカに背を向ける。一歩、また一歩と奥へ進み、アスカから離れていく。白い光の中に、消えていく。  「私、待ってるから! みんなが忘れても、ずっとずっと待ってるから!!」  アスカの叫びが、白く塗りつぶされた空間にこだまする。その声を聞いて、三人が同時に振り返る。  三人の微笑む顔が、白い光に塗りつぶされて消えていった。
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