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白く暖かな光が、カーテンを通して肌に振れる。小鳥のさえずりが心地よく耳に流れ込み、ぼやけた意識を少しずつ目覚めさせていく。
アスカはゆっくりと目を開けた。まだ力の入らない体をゆっくりと起こしてカーテンを開けると、いつもと変わらない街の景色が窓の向こうに現れる。
「……夢?」
目をこすり立ち上がろうとすると、右手の先に何かが触れた。
いつの間にか、枕元に白い封筒が置かれている。拾い上げて顔の前に持ってくると、朝日に照らされて細く頼りなげな字が浮かび上がる。
――アスカへ
アスカは素早く身を起こして、自身の名が書かれた封筒を開いた。
中に収められた薄い紙を、震える手でゆっくりと引き出し広げる。どことなく歪んでいて、あまり上手ではない字が透けて見える。
それは紛れもなく、貴斗の字だった。
アスカは呼吸を整え、ベッドに座ったまま手紙に目を通し始めた。
――この手紙を読んでいる頃には、全てが元通りになっているだろう。
お前が生まれたとき、俺と同じ思いは絶対にさせたくないと思った。だからお前が幸せになれるよう、精一杯心を砕いてきたつもりだった。
だが俺にはもう、お前を幸せにできる自信がない。
お前と戦った時、俺は自分が親の愛というものを全く知らないことに気付いた。知らないものを、子どもに注げるはずがなかったんだ。
だから俺も奈江も、この家には戻らない。やるべきことを果たしたら、この世界から去ることにする。
もう二度と、会うことはないだろう。
さようなら、アスカ。
父より
「……夢じゃ、なかった」
アスカは声を震わせ、手紙を掴む手に力を込めた。小刻みに震える紙の上に、大粒の涙が落ちて流れていく。
「父さんも母さんも、大っ嫌い。……ほんと馬鹿、最低」
溢れ出た雫が次々と紙を濡らし、文字が滲んで潰れていく。
アスカの心に、怒りと悲しみが溢れ出す。
叫んで、両親を思い切り罵倒してやりたい。怒りに任せて、相手に手を上げてしまいたい。いけないことだと分かっていても、暗い衝動がふつふつと湧き上がって止められない。
だが、怒りをぶつける相手はもういない。
やり場のない怒りを込めて、アスカは手紙を握り潰した。近くにあったゴミ箱へ歩み寄り、力任せに紙くずを叩き込む。
窓を開け、風を浴びる。暖かな朝日が、アスカの顔を照らし出す。
悲しくても、もう戻れない。戻らないと決めたからこそ、アスカは今ここにいる。
首を激しく振り、力強く涙を拭う。じっくりと深呼吸をして、アスカは眩しい太陽を真っ直ぐに見上げる。
「私、負けないから」
声を震わせつつも、アスカは力強く口にする。
自分を縛る呪いは、もう存在しない。あとは、自分の足で歩いていくしかないのだ。
そう決意を固めて、アスカはただ前を向く。
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