《ハリーVERSION》

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《ハリーVERSION》

 志村ヒサシの告白を聞いてオレも胸が締めつけられる思いだ。  最愛のフィアンセを(うしな)った(かな)しみは(はか)り知れない。  しょせんオレたちは他人でしかないんだ。 「あの子の母親も花が好きだったからね」  管理人の九十九(つくも)も父親らしい事を言った。 「そうですか」  きっと優しいお母さんだったのだろう。 『これは本城マリアさんのフェイスノートにあった画像です』  不意にナポレオンが画像を送ってみせた。  そこには本城マリアが白いマーガレットの花束を持って幸せそうに微笑んでいる姿が映っていた。優しさが(にじ)みだすような可愛らしい笑顔だ。  隣りで志村ヒサシも恥ずかしそうに笑っている。お似合いのツーショットだ。 『『忘れないで……』。白いマーガレットの花言葉です。本城マリアさんのコメントが寄せられていました』 「そうか……」  また志村ヒサシは哀しそうに微笑んだ。目には()っすらと涙が(にじ)んでいた。 「フフ、絶対に忘れるはずはないさ……」  彼は空を見上げ、そっとつぶやいた。頬を涙が伝っていく。 『それから九十九(つくも)さん。これだけは言っておきますが……』  ナポレオンが優しく微笑んだ。 「なんだね……。私も覚悟を決めたよ。このあと警察へ自首するつもりだ。姫乃さん。よろしかったら弁護を頼めますか」 「ええ……、私で良ければもちろんです」  セクシー弁護士も笑顔で(うなず)いた。 『そのことでご提案があります』  ナポレオンが優しく微笑んだ。 「ン、提案……、なんでしょう」 『ええ、ボクは謎さえ()ければ良いのですから。  管理人の九十九(つくも)さんを警察へ告発したり逮捕する気はありません』 「ええェ……?」驚いて管理人の九十九(ツクモ)と志村ヒサシは目を丸くした。 『ボクたちも本城マリアさんのことは忘れません。ねえェ……、アリス』 「ええェ……、そうね。ジゴロが。それでこの事件はお仕舞(しま)い。キレイさっぱり事件の事は忘れることにしましょう」  セクシー弁護士はニッコリ微笑んだ。 「本当ですか……」ホッとしたような顔だ。 『ええェ……、迷惑系YouTuberのハリーも守秘義務を遂行できるかな』 「おいおい、バカにするなよ。オレだっては守るよ」 「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いか」  管理人の九十九(つくも)と志村ヒサシは深々と頭を下げた。  青く澄んだ空にひとすじの飛行機雲が流れている。  決して、今日のことは忘れないだろう。  墓石に供えられた白いマーガレットが()れていた。    LOVE FOREVER  愛よ。永遠なれ! ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
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