《ハリーVERSION》

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《ハリーVERSION》

「オレはマリアと出逢わなければ、ずっと(すさ)んだ生活を送っていただろう……」  志村ヒサシは(かな)しそうな眼差しで語り始めた。  眼下(がんか)に広がる東京湾を眺めている。遠くには猿島が見えた。更に遥か遠くには房総半島が見える。  ゆっくりと志村ヒサシは懐かしそうに本城マリアとの出逢いを話し始めた。 「あの頃、ケンカで勝つことだけがオレのプライドだった。負けるくらいなら死んだ方がマシだと思っていた。  親父を金倉金蔵と間違われ、レッドスパイダーにリンチされ殺された日からオレは刹那的に生きていたんだ。  ある雨の降る日、オレは敵対する半グレ集団の『レッドスパイダー』とやり合った。  相手は当時、関東最強と(うた)われた『紅い蜘蛛(レッドスパイダー)』だ。  さすがに百戦錬磨のオレでも敵が悪かった。  それでもなんとかボロボロになって逃げ延びた。オレもここまでか。  傷だらけで路地裏に倒れていると野次馬が『汚ったねえェ……』と言ってあざ笑っていく。  どいつもこいつも関わり合うのが嫌なのか。見て見ぬ振りだ。ぶっちゃけ泣けてきた。世間のヤツらからすればオレはゴミ同然だ。しかし疲労困憊で足腰が立たない。  そんなオレにただひとり傘を差しかけてくれたのが本城マリアだった。 『ねえェ……、大丈夫? 立てるかしら』  彼女は汚れるのも構わず肩を貸して自分の部屋まで運んでくれた」  なおも彼の懺悔(ざんげ)は続いた。 「……」  俺たちは黙って彼の話しを聞いていた。 「彼女の看護で奇跡的に回復した。いつしかオレたちは愛し合い将来を語り合うようになった。  マリアは小さなベランダで花をいくつも育てていた。  小さくても良いからいつか自分の花屋さんを開きたいと言っていた。  オレたちに取って叶わぬ夢を語り合った。もしかしたらあの頃が一番幸せだったかもしれない。  マリアからマーガレットが好きだと聞いたのもその頃だろう。  しかし……。  彼女はジゴロの四仁(あずまジン)(だま)され金倉の愛人にされかけた。  そして彼女は逃げるようにビルから転落し亡くなった」  最後は感情が(たか)ぶり声が震えていた。    ☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚☆゚.*・。゚
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