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先生の童貞をください。
新任高校教師の俺、熊田音令亜は、いきなり担任クラスを持たされる事になった。担当する生徒達は学校で成績の悪い物達が集められたD組。素行の悪い生徒もいるらしい。前の担任が、精神的に病んでしまったそうだ。新任には荷が重そうだが、教員不足により、苦肉の策だそうだ。
今日は初めてのホームルーム。我が教え子達との初対面の日である。
教室の入り口、早速黒板消しが扉に挟まれてる。扉を開けると頭に落ちてくる仕掛け。なんてベタな、ベタ過ぎる。お前ら昭和か……。ゆっくりと扉を開ける。
「あれ?」落ちてこない……。黒板消しを見上げる。と、それは時間差で俺の顔面に落下してきた。
「ヤッター!大成功だ!!」生徒達の歓声が聞こえる。
どうやら、ガムテープを利用して時間差で落下してくるように調整していたようであった。俺は苦笑いしながら、顔のチョークを叩き落とし教壇に移動する。
「歓迎ありがとうごさいます。今日から担任の熊田です。宜しく」俺はこれ位の事で、怒ったりしないのだ。
生徒達は少しざわめいている。
「先生!質問いいですか?」急に男子生徒が手を上げる。
「ああ、構わないぞ」
「その額の傷はどうしたんですか?」
「これか、これは……、昔、ちょっとな」俺のおでこには少し目立つ小さな傷がある。俺が赤ん坊の頃、父親が俺を床に落として頭をぶつけたそうだ。普通の赤ん坊であれば死んでてもおかしくない衝撃だったそうだ。
「おい、まさか元ヤン……」
「ヤバい奴……」生徒達がざわめいている。
なにか誤解をされているようですが……。
「先生!恋人は?」唐突に女子生徒からの質問。それ、答えないと駄目かしら……。
「こ、恋人は……、いません」モテないほうでは無かったが、いまだかつてそういう存在は居なかった。
「じゃあ童貞ですか?」教室は爆笑に包まれる。女の子が人前でそんな事を言うもんじゃありません!
「ほっとけ!!出席を取るぞ!」俺は肯定も否定もしない。生徒達の名前を読み上げていく。
「小鳥遊麗華」先ほどの女子生徒の名前であった。
「はい」彼女は軽く挙手をしながら、返答した。
「それじゃあ、ホームルームを終了する。午後のクラス会で委員長と副委員長、それと各種係を決めるから、そのつもりで」俺は段取りを終えると、教室から退室する。
(はあ、先が思いやられる……)なんだか少し不安になる。
「先生、熊田先生」唐突に声をかけられる。振り替えると、先ほど質問してきた女子生徒。正直、彼女に良い印象はなかった。
「なにか用かい?えーと……」
「小鳥遊です。小鳥遊麗華」
「ああ、小鳥遊か、どうした?」
「麗華って呼んでください」
「いや、あの、生徒の名前を下では呼べないよ」
「はぁ……、そうですか……」なんなんだこの会話は……。
「で、何?」
「先生……、お願いがあるんです」
「お願い……、何?」
「えーと……」彼女は少し恥ずかしそうにモジモジしている。思春期の相談事は不得意ですよ。特に恋愛関係は適切なアドレスは無理だと思います。
「保健の先生とかのほうがいい話?」
「いいえ、先生じゃないと駄目なんです」
「はあ……」
「先生の童貞を私にください」
「はあ……」その瞬間、俺は無の境地に達したような気がした。
「聞こえませんでしたか?私、先生の童貞……」その瞬間、彼女の口を手で塞いだ。
「お前……阿呆なのか?」俺は思わず口にしてしまう。
「ひ、酷い……」小鳥遊は、少し涙ぐむ。
「おっ、おい……」俺は気が動転する。
「熊田先生、どうか、しましたか?」隣のクラスの担任、若松綾子先生。
「いえ、ちょっと彼女の相談事を……、なぁ」俺が目配せをすると小鳥遊は軽く頷いた。
「そうですか。まあ、新任早々トラブルには気をつけてくださいね」綾子先生はそう言い残すと1階の職員室へと向かっていった。
「ちょっと、勘弁してくれよ……」俺は恨めしそうに小鳥遊の顔を見た。
なぜか、彼女が薄ら笑っているように見えた。
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