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「夏祭りとか近くの公園とか?」
「それいつの話?」
「中学。付き合う前は、雑貨屋と安い飲食店とノリでホテル」
美鈴はそう答えると、またレモンサワーを一口飲むと続けた。
「私知ってんだよ。私とはフードコートばっか行くのに香奈さんとは旅行行ったり水族館行ったり高級なディナー行ったりしてんの。高校生の時にブランド物の化粧品買ってあげてたことも。あと、新婚旅行でハワイ!!」
そう言うと、美鈴は近くの店員に「レモンサワー下さい!」と大声で頼んだ。
香奈さんというのは、亡くなった奥さんの名前だろう。美鈴が嫉妬深いことや行動力があることは知っていたけどここまでするとは思っていなかった。
でも、そんな親友が少し羨ましいなとも思う。真希なら絶対そこまでチェックすることなんてできない。というか、見たくないし知りたくない。
そんなこと知ったら真希はまだ大翔のことを思い出してしまう気がした。今度こそ不倫に走るかもしれない。
「じゃあ、素直に頼んだらいいじゃん。前の奥さんと同じようにしてって」
「頼んだよ」
「そしたらなんて?」
「金と時間がないから無理って。香奈さんと違って私働いてんのに」
美鈴はそう言うと「私って2番目なのかなー」とぼやいた。
彼女の言葉が今度は達也に重なった。2番目。2番目に好きな人。世界で2番目に好きな夫。そんなふうに考えてしまう自分には真希はさらに罪悪感を覚えた。
「美鈴はまだいいよ」
「なんで?」
「1番好きな人と結婚できるから」
「彼バツイチだけどね」
「バツイチって言っても死別離婚でしょ」
真希はそう訂正すると、自分もからあげを1つ摘んだ。
真希からしたらイケメン彼氏がいて自分と違って1番好きな人と結婚できる美鈴が羨ましくて仕方なかった。少なくとも普通顔で2番目に好きになった人と結婚した自分よりかは幸せなはずだ。
目の前で好物のマグロを摘む美鈴に真希は問い掛けた。
「今更だけど、美鈴って初恋何歳?」
「12。中1の4月」
「相手は?」
「彼氏」
「ほら、やっぱりー」
そう言って真希はあまり手をつけていなかったビールを一口飲んだ。
初恋が実るなんてなかなかないししかもその相手と結婚なんてこともなかなかないだろう。なのに目の前の彼女はいつまでも一途に今の彼氏のことを想い続けて婚約まで辿り着いたのだ。そんな自分にはない美鈴の行動力が羨ましかった。それだけの行動力が自分にもあれば今は違う未来だったのかもしれない。それとも大翔と自分が一緒になる未来自体存在しなかったのか___。
いつの間にかアルコールを辞めて烏龍茶を飲み出した美鈴に真希は「もう飲まないの?」と軽く聞いた。
「んー、今日はね。彼の家近いからちゃんと謝ろうと思う」
「へー、美鈴にしては珍しいじゃん」
「真希もはやく旦那さんのところに戻ってあげてよ」
「言われなくても分かってるよ」
そう言いながら真希は緩くなった烏龍茶を飲み干した。
本当は、まだ少しモヤモヤはする。だけど、親友と話しているうちどうでもよくなってきてあの恋を過去の恋だと捉えようとしている自分がいるのも事実だった。過去の恋のことは、時間が解決してくれるのかもしれない。
2番目に好きな人が最高のパートナーになることだってあるかもしれない。それに少し美鈴より良いところでデートしてるだけだけで彼女に羨ましがられるのだから幸せじゃない訳ではない。
初恋の未練も苦しさもきっといつかは忘れる。
だから、明日からは少しだけ前を向こう。
そう思って真希は勘定を席に置いて1人先に店を出て行こうとする親友を追いかけた。
この恋もいつか忘れる 完結
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