第三章 最後のデート

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 レモンティーとレモンチーズケーキが乗せられたトレーを持って窓際の席に座る。初めてここを訪れたあの時から10年以上経っているのにカフェから見える景色はあの時とあまり変わっていなくてそれにどこかほっとしていた。  向かい側にある美容院もその角にある花屋もあの時のままで残っている。  変わったのは、時代の流れに合わせて変わったカフェのメニューと社会人になって大人になった自分達だけだ。  学生の時は、甘党でコーヒーを飲まなきゃいけない場面では必ずミルクや砂糖をたくさん入れていた大翔がミルクも砂糖もいれずにアイスコーヒーをストローで飲んでいる姿を見て真希は内心ドキッとした。いつからこんなに大人になったんだろう。  そんな真希の心の声が聞こえたのか自分からの視線を感じたのか大翔は、真紀の方を見てニッと笑った。 「びっくりしてる?」 「え、あ、うん」  驚いて小さく頷いた真希に彼は表情1使えずに言った。 「俺だってびっくりしてるよ。真希、昔はレモン味みたいな酸っぱい物苦手だっただろ」 「うん」  真希はそう頷くと続けた。 「いつからブラックコーヒーが飲めるようになったの?」 「よく覚えてないけど、社会人になってからかな。コーヒーを飲む機会が増えたから」 「へー」 「真希は?」  そう聞かれて真希はいつからレモンが平気になったんだっけ、と考えた。気づいたら勝手に飲めるようになってたし食べられるようになっていた気がする。  苦手だった物が食べられるようになるって自分の中での大きな変化のはずなのに意外と覚えてないもんなんだなーと思いながら真希は首を横に振った。 「私もよく覚えてない。でも、社会人になってからだよ」 「なんだ、同じじゃん」  そう言って笑った大翔に釣られて真希も笑った。やっぱり彼と一緒にいると楽しい。  それから近況報告や他愛のない話を交わした。  大翔の奥さんは、勤務先の会社の同じ部署の同期で活発な性格の人らしい。20代の時に結婚して今は子供が2人いる。将来的には、3人欲しいと考えているらしい。  そんなふうに楽しそうに家族の話をする大翔を見ているとやっぱり自分に勝ち目はないなと真希は思った。  最初の頃は、美鈴のように本気で奥さんから相手を奪いに行く道も少し頭をよぎったりもした。でも、こうやって幸せそうに家族の話をする大翔を見ると全て吹っ切れた。  だから、彼のことを想うのも今日で終わりにしよう。  真希はそう心に決めると「大翔」と彼の名前を口にした。
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