第三章 最後のデート

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「何?何?」  食べ物を食べながら話す行儀の悪さは昔から変わっていない。そんな彼をおかしく思いながら真希はニコッと笑った。 「最後に伝えたいことがあるからそれだけ聞いてもらってもいい?」 「真希の話なら何でも聞く!」 「それ私じゃなくて奥さんに言ってあげなよ」 「別に元カノにこういう態度とってもいいじゃん。なくなる物じゃないんだし。で、話って?」  彼にそう言われて真希はゆっくり口を開いた。 「私、風の噂で大翔が結婚したって知った時すごくショックだったんだ」 「うん」 「その時、私は結婚願望はあったけど仕事に夢中であんまり恋愛とかは真剣に考えてなかったんだよね。でも、この時はすごくショックだった」 「なんかごめん。別れるなら別れようってちゃんと真希に言うべきだったよな」  そう言ってしょんぼりと肩を落とす大翔に真希は首を左右に振った。 「謝ることないよ。私だって今は結婚してて幸せだもん」 「相手どんな人なの?」 「取引先の会社の人で大翔と違って動物好きな人。歳は1歳上」 「違ってって言い方なんか嫌だな」 「本当のことじゃん」  そう返した真希に大翔は「ま、そうだけど比べられてるようでなんか傷つく」と返すと頭の後ろで手を組んだ。 「もし、真希と一緒になってたら上手くいかなかったかもしれないね。俺、犬苦手だから愛犬家の妻とか無理かも」 「それはこっちのセリフ。私だってテレビでスポーツ中継ばかり見てる旦那とか私だって嫌だし」  真希はそう言うと「でも」と付け足した。 「付き合ったことには後悔してないよ。今日の大翔の姿見てたら吹っ切れたもん」 「それは俺もだよ。真希に会えて良かったよ。本当に」 「なら私も嬉しい」  真希はそう言うと、持っていたスマホの画面を彼に見せた。 「連絡先も今日で消すよ」 「じゃあ、このカフェを出たらさよならしよっか」  大翔の言葉で同時に立ち上がりトレーを返す。  お互い無言でカフェの入り口まで歩くとドアの前でお互い小さな声で言った。 「元気でね」  もう会うことはないけど、これからも元気でね。それが彼との最後の言葉になった。  そして、カフェを出た真希と大翔は別々の方向に歩き出した。  帰り道、久しぶりに寄った大学近くのスーパーに着くまで泣くのは我慢しようと思った。でも、心は素直で涙がボロボロ溢れた。やっぱり1番好きだったのかもしれない。でも、彼の幸せを奪う気にはなれないし行動力もない。  真希は、スマホの画面に映しだされた大翔のアカウントをブロックして削除した。これでもう全て終わりだ。そう思うと、また涙が溢れてきた。
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