第一章 旦那は二番目に好きな人

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「ねぇ、真希」 「ん?」 「真希ってなんでそんなに惚気話できるの?」 「そんなの旦那のことが好きで幸せだからに決まってるじゃん」 「ふーん」  そう言ってまたビールを飲む美鈴。彼女が何を考えているのか真希にはさっぱり分からなかった。 「美鈴だってイケメン彼氏と毎日いちゃついてるんじゃないの?」  その言葉に美鈴は首を左右に振った。 「全然。その代わりに口喧嘩ならよくする」 「美鈴は惚気話あんまり話さないもんね」 「私は真希みたいにイチャイチャできないもん。私のキャラじゃない」 「キャラじゃないって。でも、婚約者なら同居とかしてんじゃないの?」  真希が質問したのと同時にさっき注文した刺身が運ばれてきた。美鈴は、早速マグロに箸を伸ばしながら言った。 「婚約はしたけど、まだ同居はしてないんだよね。向こうは子供いるし」 「あ、そっか。相手子供いるって前に言ってたよね」  初婚の相手がただのバツイチではなく、バツイチ子連れでなのかと思いながら問いかけた。 「うん、私のことおばちゃんって呼ぶからいつも喧嘩してる」 「喧嘩って…。その子何歳?」 「小3。お姉さんって呼べって言ってんだけどね」  そう言って美鈴はまたビールを一口飲む。彼女の3杯目のジョッキはもう空になりそうだった。 「小3の子からしたら30代の女の人なんかもう立派なおばさんだって」 「でも、私のこと子供っぽいって彼が言ってたから」 「あーそれは分かる」  美鈴は童顔で性格も子供っぽい。だから、彼女のことを「おばちゃん」って呼ぶのは少し違和感は確かにあるし「おばちゃん」って雰囲気もしない。でも、小さい子からしたら自分の親以外の大人なんてそんなふうに見えても全然おかしくないだろう。 「でしょ?ってか、真希の方こそ最近はどうなの?新婚旅行どこ行くの?」 「ハワイかな」 「ハワイ!?いいなぁ」  そう言って美鈴はまたマグロを摘んだ。マグロの刺身が好物なのは知っていたけど、この勢いだと美鈴に全部食べられそうだなと思いながら刺身の方を見る。マグロは、あと2切れ。 「美鈴もどっか連れて行って貰えばいいじゃん」 「んーどうだろ?国内じゃないと無理って言われそう」  美鈴はそう言った後に「いいよね、金と時間があるって」と付け足した。 「別に私達もそんなにお金ある訳じゃないけど…」 「でも,時間があるじゃん。多分、新婚旅行行きたいなんて言ったら前妻の実家に彼の子供預けるところからはじまるんだよ?学校が休みで前妻の実家の都合が良い時って…」 「それはそうだけど…」 「こっちは好きな時に旅行行きたいのにめっちゃ左右されるってどうなの?」  そう言って美鈴はまたマグロを摘んでいつの間にか注文していたらしい4杯目のビールを一口飲んだ。 「でも、頼んでみたら?海外行きたいって」 「今度言ってみよっかな。絶対喧嘩になるけど」  美鈴はそう言うと、最後のマグロを箸で摘んだ。好物を独り占めするところとか本当子供だなーと思う。童顔だしこう言うことするのもアリな気もする。 「そういえば、真希」 「ん?」  真希が聞き返すと、美鈴は少しお酒がまわってきたのかニコニコしながら口を開いた。 「私さ、真希は元彼。えっと、石川君だっけ?その子と結婚するのかと思ってたー」 石川君。久しぶりに聞いたその名前にドキッとする。  真希が大学生の時に4年間付き合った元彼。同じ商学部で県外の飲料メーカーに就職した彼の笑顔が頭をよぎる。 「大翔君は過去の人。今は達也がいるもん」 「でも、ペアリング買ってたし将来のことも語り合ってたんでしょ?」  そう言ってヘラヘラと笑う彼女の言葉にムッとする。  過去は過去なのだから今更あれこれ言われても変えれる訳がない。  第一、真希は美鈴みたいに行動力のあるタイプでもないし既婚者と不倫する勇気もない。風の噂で大翔はずっと前に結婚したと聞いたし、今も隣の県で暮らしているのかどうかすら分からないのに。 「もー、いつのこと言ってんの?ってか、美鈴今日はもうビール禁止」 「なんでよ、せっかく気持ち良くなってきたのに」  急に素に戻った美鈴に真希はさっきのは半分演技だったのか、と気付いた。鈍感なのは自分の方かもしれない。もちろん、アルコールの影響で思考が回っていない部分もあるだろうけど。 「美鈴が余計なこと言うから」 「別に余計なことじゃないし」 「余計なことだよ。新婚の私に昔の男の話を出すなんて普通あり得ないって」 「そう?」 「普通そうだよ。旦那に悪いじゃん」  そう言って烏龍茶を飲んだ真希に美鈴は「思い出話しただけなのに」とつまらなさそうに返すと、近くを通った若い店員に「レモンサワー1つ!」と声をかけた。そんな親友の姿を見て真希は、やっぱり酒禁止って言うべきだったなと心の中で反省した。
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