第一章 旦那は二番目に好きな人

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 美鈴と別れ、1人で明るい国道沿いの夜道をとぼとぼと歩く。そんな賑やかなようで寂しい夜道で考えるのは、さっき美鈴に言われた一言。  “私さ、真希は元彼。えっと、石川君だっけ?その子と結婚するのかと思ってたー”  その言葉が頭をぐるぐると周る。もう連絡をとっていない彼のことが頭を何度も過ぎる。  丁度1年くらい前の美鈴もこんな感じだったのだろうか…?そんなことを思いながら真希はトレンチコートのポケットに入っているスマホを握りしめた。  正直、大翔に未練があるのは確かだった。  でも、だからと言って美鈴と同じようなことはしようとも思わないし旦那である達也と離婚するつもりもない。愛犬家である真希にとって同じく愛犬家である達也とは良き人生のパートナーになれそうな気がする。  子供の頃に犬に噛まれたことを理由に犬を怖がっていて近づこうともしなかった大翔なんかよりずっといい。恋愛映画が見たい真希に対してアクション映画ばかり誘ってくる大翔と付き合うより一緒に真希が見たい映画に付き合ってくれる達也の方が絶対良い。  でも、こうやって旦那と元彼を比べている時点で自分はまだあの恋を終わり切れてないんだろうなと真希は思った。  綺麗な恋愛の終わり方なんてこの世には存在しないのかもしれない。でも、完全に冷めて別れるのとまだ好きだけどすれ違いから別れてしまうのなら絶対前者の方が良い。その方がスカッとする。  そう思ってしまうのは、真希の恋の終わりが後者だっただからだろうか…?  真希がポケットからスマホを出すと、達也から『TALK』にメッセージがきていた。 『お疲れ様。まだ友達と飲んでる?』 『お疲れ様。今帰ってるところだよ』  そう送った後でやっぱり達也は気遣いができる人だと思う。彼とは1歳しか変わらないはずなのに真希には彼が2、3歳大人に思えた。  そんなことを思いながらスマホの画面を眺めていると、彼から返信がきた。 『真希、今どの辺にいる?』 『国道沿いだよ。スーパーの辺り』  真希がそう送ると、彼は『OK』と言う文字の入ったスタンプを送ってきた。そして、そのスタンプに続いてメッセージも送られてきた。 『じゃあ、そこまで迎えに行くからそのスーパーで買い物してもらっててもいい?そしたら明日ゆっくりできるし』  そのメッセージに真希は「ありがとう!」とメッセージの入ったスタンプを送り返した。やっぱり達也はどこまでもスマートだ。  真希は、右隣にある24時間営業のスーパーに入ろうと右に曲がると入り口近くにある自動販売機前を四つん這いで歩いているスーツ姿の男の人が目に入った。年齢は恐らく自分と同じくらいだろうか?  必死に何かを探している彼を周りの人は不審な顔で見ていたけど、真希は彼に声をかけずにはいられなかった。  真希は四つん這いでいる男の人に上から「すいません」と声をかけると、彼は視線を真希の方に向けた。 「何か落とされたんですか?」  真希がそう声をかけると、男の人は「実は結婚指輪をどこかに落としてしまったみたいで」と言いながらまた地面を這っていた。  道理で四つん這いで入り口付近を歩いていたはずだ。他の人がそんな彼を変な目で見る理由も分かるけど、落としてしまった結婚指輪を必死で探す彼の気持ちも真希は分かった。 「とりあえず、お店の人に届いてないか聞いてみましょう」 「そうですね」  そう言って彼が立ち上がった瞬間、彼のポケットから名刺がペラリと地面に落ちた。そこに近くの電気の光が当たる。 『石川大翔』  その名前と会社名を見た瞬間、真希はゾッとした。これじゃあ、1年前の美鈴と同じじゃないか。 そう思いながら真希は『石川大翔』と書かれたその名刺をじっと眺めていた。
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