第一章 旦那は二番目に好きな人

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 買い物カートを大翔に押してもらいながら真希は震える手で食材を手に取っていた。  普段、達也と一緒に買い物をする時はゆったりとした気持ちになれるのになぜか大翔相手だと手が震える。どうしてか分からないけど緊張してしまう。  お互いの近況報告を語り合いながら必要なものを籠に入れていき、レジで会計を済ませたのとほぼ同時に達也から「着いたよ」と『TALK』がきた。  これでもう楽しい時間は終わりだ。 「あ、旦那来たみたい」  そう言ったら引き止めてくれるかな、と淡い期待をしながら呟いた真希とは反対に大翔は「じゃあ、俺も帰るわ」と言って持ってきた買い物袋を真希に渡して来た。  本当に終わりなんだ。そうだよね、お互い既婚者だもんね。  そんなことを心の中で思いながら真希はスマホを大翔に突きつけた。 「私、大翔と別れた後に大翔のTALKを消しちゃったんだけど良かったらもう1回連絡先交換しない?」 「あ、俺も消したからいいよ。やろやろ」  これはあくまでも友達として。  そんな言葉が誰かに言われた訳じゃないけど聞こえてきた。  別に達也が嫌いな訳ではない。むしろ好きだし一緒にいると安心する。  大翔はジェットコースターみたいに一緒にいると、急にドキドキさせてくる元彼でそれ以上それ以下何でもないのだと真希は必死に自分に言い聞かせた。  例え、1番好きな人が大翔だったとしても真希が生涯を共に歩みたいと思っているのは間違いなく2番目に好きな達也だ。  好きな人に順位をつけて元彼が旦那より上だなんて自分でも最低なことをしていると思った。でも、自分の心には嘘はつけなかった。  大翔と店内で別れ達也が1人で待っている車に行くと、彼は会社の資料を見つめているようだった。真希も達也も仕事を楽しんでいるのだと言う面でもやっぱり気が合うんだと真希は自分に言い聞かせた。彼の方が一緒にいて楽しいに決まってる。 「ごめんね、向かいに来てもらって」  真希がそう言って車のドアを開けると、彼はニッコリ微笑んだ。 「お疲れ様。女子はどうだった?」 「楽しかったよ。でも、女子会って言っても2人だけだよ?」  無理矢理笑顔を作って助手席に乗った真希に達也は「何かあった?」と聞いてきた。  ヤバい。気遣いができるのが達也の良いところとはいえこんなところまで気遣われては困る。元彼とたまたま遭遇したなんて口が裂けても言えない。 「ううん。何でもないの。ちょっと飲みすぎちゃっただけだから気にしないで」  そう言ってまた無理矢理笑った真希に彼は納得がいかないといった表情を浮かべていたけどそれ以上は深く聞かずに車のエンジンをかけた。  スーパーの駐車場から出る途中、駐車場に停めた車の中で通話をしている大翔が目に入った。通話に夢中な彼は目の前を通った車には目をくれずに誰かと話しているようだった。
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