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第二章 既婚者になった私と既婚者になった彼
県外に就職したはずの大翔がなぜあのスーパーにいたのか知ったのは、その日の夜のことだった。
『今週の水曜日までK市に出張でそれまで1人で実家に帰ってるんだ』
ご丁寧にいつからいつまでどこに出張かまでしっかり入力してきた彼に真希は「なるほど」と文字がメッセージが書かれたスタンプを送った。連絡先を交換したいと言ったのは自分の方だし、連絡先を交換して買い物に付き合ってもらったこと以外何もしてないけどやっぱり後ろめたいものはあった。
だが、大翔は特にそんなことは思わないのか続けてメッセージを送ってきた。多分、彼はもう真希のことをただの“元カノ”でただの“大学の同級生”としか見てない。既婚者だからそれが当たり前のはずだ。
それなのに今でも彼のことを1番好きでいる自分のことが真希は嫌だった。
でも、自分の気持ちとは裏腹に大翔とメッセージのやり取りをしている時の自分の顔は笑っていたようで達也に「何か良いことでもあった?」と聞かれることも何度かあった。
タイムリミットは、あと4日。でも、彼が家に帰る水曜日はじっくり過ごす暇なんてないだろうから実質3日くらいだろう。
時間は限られている。その限られた時間の中でこの恋心にも蹴りをつけたかった。
真希が大翔のことが1番好きでいる期間もあと少しだ。真希はそう自分に言い聞かせてスマホを置いた。
次の日、今日は仕事が休みだという大翔がお茶に誘ってきたのはその日の朝7時のことだった。
『今日少しだけ時間ある?』
その質問に真希は『大丈夫!』とすぐに返信した。達也も今日は大学の時の友達に会う予定があって朝早くから出掛けているし丁度いい。真希も大学の時の友達という名の元彼に会うのだからこの状況は都合が良かった。
そんなことを考えながらベッドから起き上がりクローゼットを開けた。
いつもはパンツスタイルが多いけど、今日みたいな日はスカートを履いてもいいなと思いながらこの前ネットで買ってとどいたばかりのベージュのスカートを手に取る。
膝丈できれいめなデザインのそのスカートは、達也とのデートの時に履いていこうと思って買ったものだった。でも、今真希がこのスカートを履いて会いたいのは夫の達也ではない。会いたいのは元彼だ。
ベージュのスカートに合わせてコーデを作り全身鏡の前に立ってみる。
「変じゃないよね?」
そう呟くと、なぜか不安になって真希はスマホのカメラで自分の姿を撮影すると親友の美鈴に『TALK』を送った。
『このコーデ変じゃない?』
そんな短いメッセージと画像にはすぐに「既読」がついた。
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