第一章 旦那は二番目に好きな人

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第一章 旦那は二番目に好きな人

 永遠の愛を誓った旦那は私が2番目に好きな人。2番目に愛した人。  なんて人に言える訳がない____。  全てのきっかけは親友の美鈴の婚約だった。 彼女が去年の秋頃から平然を装ってこそこそ付き合っていた中学の同級生と婚約したと言ってきたのは、真希が結婚式を挙げて2週間程経った頃の土曜日の居酒屋でのことだった。  美鈴が自分に隠れて奥さんと死別したとはいえ既婚者である彼女の中学の同級生とコソコソ会っていたことには真希も親友として勘付いていた。それに必死に気付かないふりをお互いしていたとはいえ、一度だけ彼女の不倫している姿を見たことがある。  あの日、天候の関係もあってか予約していた街中の駅前のしゃぶしゃぶ屋に臨時休業すると連絡が入った。  そんなこともあり、仕方なくその周辺で空いているデートスポットを探し訪れたのは、一見ビジネスホテルと勘違いしてしまいそうな外観をした地味なラブホテル。彼と「ここなら人少ないよね」と言いながら入ったそこで後ろに並んだ客が一緒にいたのは一緒にいた同年代くらいのチャラそうだけどカッコいい男の人とカップルにしては不自然なくらい距離をとって待っていたのは親友だった。顔を知っている訳ではないけど、隣にいる彼が美鈴が今でも好きな中学の同級生なのではないかということはすぐに分かった。  でも、付き合っているならまだしもそういう訳では彼女が自分に気づき慌てて後ろに下がって行く気配を背中で感じながら真希も内心「ヤバいものを見てしまったし見せてしまった」と心の中で何度も繰り返したことを今でも覚えている。  今思えば、あの日は大雨で電車も動いていなかったし、行き先がなくて仕方なくここを訪れたのかもしれないと最初は思った。それにあのホテルは、ビジネス層もターゲットにしているせいかラブホテル街になかったら普通のビジネスホテルと勘違いして入ってしまいそうな名前と外観をしている。  でも、あそこに男女でいるということは付き合っているのか、それとも何か別の理由があるのではないかとしか思えなかった。そもそもなぜあの日、自分に迎えを断った美鈴がスーツ姿の彼と一緒にいたのかが真希には謎だった。  ひょっとしてあの頃にはもう付き合っていたのだろうか…? 「今だから言えるけどさ」 「うん」 「私、不倫現場見たことあるんだよね」  そう言ってビールを一口飲むと目の前で同じようにビールを飲んでいた美鈴が「マジで!?」と面白そうな声で言った。  こいつ、少し鈍感なところがあるから自分のことだって分かってないな。  真希はもう1口ビールを喉に流し込むと「あんたのことだって」と言って目の前で能天気な顔で唐揚げを摘んでる美鈴を指差した。 「ん!?」  そう言って自分を指差す美鈴。どうやら本当に気づいていなかったらしい。 「すっごく言いにくいんだけど」 「うん」 「去年の大雨の日、ホテルにいたよね?」  流石にどこにいたのかは言う勇気はなくて普通に“ホテル”という言い方をしたが、美鈴は何のことかすぐに分かったようで少し顔を赤らめながら「牛丼屋しか行ってないし」と少し強気な声で言った。それってもう「私はそこにいました」って言ってるようなもんじゃん、と真希は心の中でつっこむ。本当に彼女は分かりやすい。  そんなことを思いながら真希は焼き鳥を一本取った。 「それに私、美鈴がその彼と付き合ってるの気づいてたんだよね」 「え?なんで?」  驚いた声でそう言われて本当にバレてないと思っていたんだな、と思った。  表情や態度に分かりやすく出ることに彼女は多分気づいていない。 「分かりやすいから。美鈴っていつもはアクセサリーとかつけないのに今年に入ってから急に右の薬指に指輪付け始めるし」 「バレてた?」 「バレバレ」  そう返した真希に美鈴は「マジかー」と呟いてまたビールを飲み干した。これで3杯目。お酒に弱い真希は1杯が丁度いいのに対しアルコールが強い彼女はかなり飲む。ストレスがたまった時はその量も増える。 「私、真希に反対されると思って彼とのことは同僚の男友達にしか話してなかったんだ」 「え、男友達に話してたの?」 「うん。昔話した看護師の」  そう言われてそういえばそんな子も美鈴の友達にいたなーと思う。同性の友達とばかり仲良くしている自分と違って比較的誰とでも仲良くなれるタイプの美鈴は男友達も多い。 「そっかー」  そう言って真希は一緒に頼んでいた烏龍茶を口にした。
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